死神討伐戦7【変更とその先に】
ドゴォォ……ン……。バチバチ……。
「んぁ?」
街を歩く酔っ払った男が空を見上げると、闘技場から雷のような閃光が走っていた。
「何でぇ?今日は闘技場でイベントでもあったんか?」
酒臭い息を吐きながら男は酒気に任せてふらふらと闘技場へと足を進ませた。
ーーーーーーー
「うるさいなぁ……一体何が……」
「おい!見てみろよ!闘技場からだ!」
ザワザワと騒然となるイーリスト城下町。
その発端はこの国最大の闘技場。その2つの強大な力のぶつかり合いに導かれるように街の人々は次から次へと闘技場へと足を進ませていくのだった。
ーーーーーーー
雷の結界が突き破られ、デュノワールの一撃が闘技場の地面を砕く。
「ばかやろぉ!?」
マリアンヌは体の痛みも忘れて駆け出すと、その結界から落ちてくるデュノワールを受け止めた。
「ばか!何やってんだよ!?」
「あ〜……痛ぇー……」
黒焦げになったデュノワールはマリアンヌの腕の中でぐったりとしている。
強がりのように呟く減らず口もいつもの元気はなく、全身が焼き焦げてみるも痛々しい姿となっていた。
「でも……でもあんたのおかげであの召喚獣は倒せた!後は死神だけ……」
だが、これでようやく手強い召喚獣を倒せた。そうマリアンヌは確信する。
「わりぃ……しくじった……」
ところが、デュノワールから返ってきたのはその逆の言葉だった。
「……え?」
「避けられ……いや、戻された。まだ……まだ死神はくるぞ……!」
ーーーーーーー
デュノワール捨て身の攻撃。
ソウルと同じならば、召喚獣のダメージは術者にも一部返ってくる。
つまり、サンダーバードに与えたダメージは死神に返る。
ということは、奴に致命的な隙が生まれるはずだ。それが分かってのデュノワールの行動だろう。
ならば、私がやるべきことは1つ!
「貴様を討ち取ることだ!!【瞬撃】のマナ!【ハルペス】!!」
エクスカリバーから撃ち出される7本の斬撃。それらが四方から死神へと襲いかかる。
「【暗然】に【転移】と【連撃】のマナ!【異次元転送】!」
そこに展開されるハミエルの転移魔法。
いくつもの黒い渦はジャンヌの光の剣撃を飲み込むと、転移に転移を重ねて異次元な動きへとなる。
それはさながら斬撃の竜巻……いや、もはや波と言ってもいいかもしれない。
「これを全て捌けるかぁっ!?」
召喚獣のフィードバックと予測不能な斬撃。
確実に死神を捉えた一撃。
デュノワールの覚悟は無駄にはしない!ここで……ここで、死神に決定的なダメージを与える!!
「【変更】」
だが、ジャンヌ達の目論見は外れる。
召喚術の練度も経験も技も。シェリーのそれは全てソウルの格上。
だから、ソウルを基準としたその策は聖剣騎士団にとって致命的なミスとなった。
「怒りのままに敵を喰らえ!」
「……っ!?」
サンダーバードが霞となって消える。デュノワールの必殺の一撃は虚しく虚空を穿つことになる。
「な……っ!?」
そしてマナとなったサンダーバードは死神シェリーの手に戻ると、彼女の武装召喚した【風獣】のマナと合わさり一瞬で次の召喚獣の魔法陣へと姿を変える。
「【風獣】のマナ!【フェンリル】!!」
「ウォオオオオオオオオ!!!!!」
そして響く遠吠えと揺れる大気。
魔法陣から飛び出したのは3mはあろう銀狼。鋭い犬歯が闘技場の魔石灯の光を反射して、より一層不気味なオーラを放つ。
そのまめ息をつく間も無く放たれるフェンリルの魔法。
「【渦】のマナ、【風雲】!」
ゴッ!!
フェンリルの全身から竜巻が放たれる。それはジャンヌの【ハルペス】の斬撃を引き裂き、消し飛ばした。
「……っ」
「めちゃくちゃするな……!」
自慢の合わせ技を撃ち消された2人は歯を食いしばる。
確実に捉えたと思った一撃ですら、死神は簡単に覆してくる。一体どれほどの手数と技を隠し持っているというのか。
「【雷獣】を【武装召喚】。【フェイルノート】」
すると今度は黄金の太刀が雷を纏う金色の長弓へと姿を変えると、シェリーはそのままハミエルの黒渦へと狙いを定めた。
「何を!?」
「穿て」
ビュッ!
短い掛け声と共に放たれた矢はハミエルの転移魔法へと吸い込まれる。
【異次元転送】。渦から渦へと転移をする魔法。
それは効果が持続する限り続く。だがそのどれがどこに転移されるかは発動者であるハミエルにしか分からない。
今まで、それを見切られたことなど、一度もなかった。
けれど、次々に転移を抜けた矢はジャンヌ達の後方へと飛来。そして……。
「え……っ!?」
後方のケイラに向けて一直線に襲いかかった。
「ケイラっ!?」
気づいた時にはもう遅い。
稲妻のような速さのそれは敵に考える隙も避ける隙すらも与えなかった。
「きゃああああああああっ!?!?」
瞬きの間に1本の稲妻がケイラの身体を貫いた。




