間章
「うーん……」
ソウルは頭をガシガシとかきながら唸る。
「……ほんと、お前は才能がねぇなぁ」
そんなソウルにシナツは呆れ果てた顔でため息をついた。
「う、うるせぇ!?そう簡単にできるもんじゃねぇんだよ!?」
たまらずソウルはシナツに向かって言い返してみる。
いや、マジで難しいんだぞ!?
あれから何度も何度も繰り返し練習を重ね続けているものの、一向に成果は得られない。何というか……できる気配すら感じられないのだ。
まるで何かが空回りしているような、そんな感じだ。
「何か……コツ!コツみてぇなもんはねぇのか!?」
「コツなぁ……」
シナツもソウルと同じようにガシガシと頭をかきながら考えた。
「もっと、マナを道具として割り切れ。なーんかお前のマナの使い方は生ぬるいと言うか何というか……思い切りが足りねぇんだよ」
シェリーとソウルの違い。
戦闘を介してだが、シェリーはもっとマナを我が物として使いこなしていた。
一方のソウルはそれをどこか躊躇しているような印象を受ける。
「そ、それは……できねぇよ」
シナツの言葉に対してソウルは苦笑いする。
「だって……俺の持ってるマナはガスト、レグルス……そしてシナツなんだ。道具としてなんか扱えねぇ」
「あ〜……なるほど、そういう事か」
その言葉を聞いてシナツは何故ソウルが【武装召喚】を扱えないか理由が理解できた。
「いいか?【武装召喚】ってのはマナを武器へと変換する力だ。つまり、マナを完全に律する必要があるんだ」
「つ、つまり?」
「俺らを道具として割り切れ。それができなきゃ【武装召喚】は……」
「絶対断る!!」
シナツの指摘にソウルは首を横に振った。
「そんな事できるか!大事なみんなをそんな扱いになんかしねぇ!」
「そんなわがまま言ってる場合か!このままじゃ一生かかっても【武装召喚】なんざできねぇぞ!?」
「そう言われたってできねぇことはできねぇ!」
「割り切れ!そんなもん一時的なもんだろう!?それぐらい……」
「それでもやらん!」
「おまっ!?相変わらず頑固な奴だな!?」
そうやってソウルとシナツはギャーギャーと喧嘩を始めてしまう。
「やれやれ」
そんな2人を見てレグルスは呆れる。
「ふふふっ。相変わらずだなぁ」
一方でずっとソウルの中にいたガストにはその光景がとても微笑ましかった。
ソウルとシナツが旅をしてきた6年間だって、こんな風に互いの気持ちを遠慮なくぶつけ合ってきたことを知っているから。
2人の積み重ねてきた絆がそれを可能にするのだろう。
「……そうだ」
すると、それを見ていたガストが何かを閃いたようにポンと手を叩く。
「ねぇソウル、今度は私でやってみてくれない?」
そう言ってガストはソウルの手を握ってくる。
「お、おぅ?別にいいけどよ……」
少し照れ臭さを感じつつもソウルはガストの手を握り返す。そしてガストのマナに意識を集中させた。
「……っ!?」
マナが……自由に動く!?
「な、何で!?」
さっきまでは何をしても全然ダメだったというのに……一体何故?
その光景にシナツも目を見張るしかない。
「えっと……ソウルには、ソウルにしかできない【武装召喚】のやり方があると思う」
そう言ってガストはソウルの手からそっと手を離す。
「私達を道具として扱わないことでマナを完全に制御できないのなら、私達がソウルに合わせればいいの」
「なるほど、そう言うことか」
レグルスも合点が言ったように頷く。
「どう言う事だ?」
「何。シェリーの【武装召喚】の道をお前が辿ることは無いという事だ」
そう言って今度はレグルスがソウルの手を握る。
あ、扱える!?
レグルスのマナもソウルの思うままに動かすことができた。
「どういうこった?」
「ソウルが力を発揮できるように……ソウルの意思を感じて俺達が自身のマナを操ればいい」
「そうすれば私達を完全に律しなくてもマナを自在に動かせるはず」
つまり、シェリーの場合は召喚獣のマナを全て道具として操りマナを自在に操る事で武装召喚を展開する。
だが、ソウルはそれができない。
ならば、お互いに意識をリンクし召喚獣となった者と協力してマナを動かすことで武装召喚を展開させようというのだ。
「待て!んなもん不可能だ!」
そんな事、できるはずがない。
激しい戦闘の中で互いの息を合わせる。
そこには一切の綻びもあってはならない。わずかな綻びでも魔法は揺らぎ、失敗する。それほどにガストとレグルスがいう手段は難易度が高いのだ。
「いや……やろう!」
ところが、ソウルは2人の言葉を聞いて強く頷いた。
「無理だって言ってんだろ!?そんなもん意識の共有でもできない限り不可能だ!」
「やれるさ!俺達なら!」
そう言ってソウルは3人の顔を見比べる。
「他の誰でもないみんなとなら……絶対にやれる。ガストはずっと俺と一緒にいてくれた。俺はお前のことなら何だって分かる」
「うん。私だってソウルの考えてることは手に取るように分かるよ」
そう言ってガストは笑う。
「レグルスはサルヴァンの時からずっと息がぴったりだ。だからきっと戦闘だろうと何だろう合わせられる」
「当然だ」
そう言ってレグルスは笑う。
レグルスとソウルは戦闘の相性が非常にいい。共に過ごした時間は短かったかもしれないがそれでも互いの動きは理解し合えている。
「シナツ……」
そしてソウルはシナツに向き直る。
「俺がこの6年間、誰の背中を見て生きてきたと思う?」
「……っ」
ソウルの言葉にシナツの胸が熱くなる。
「そんな俺がシナツの動きを分からないわけねぇだろ?」
そう。ソウルはずっとシナツの背中を見て旅をしてきた。だから分かる。シナツの考え、そして動きが。
そしてそれは逆も然り。
シナツだって、ずっとソウルのことを見てきたのだから……。
だからこそ……!
「やれるよ。きっと俺1人じゃ【武装召喚】は扱えない。だから力を貸してほしい。一緒に戦ってくれないか?」
そう言ってソウルはシナツに手を差し出す。
「……お前って奴は」
シナツは差し出されたその手を握り返す。
感じる……ソウルの意思が。
伝わる……シナツの意識が。
「「…………っ!!」」
そしてシナツの風のマナは吹き荒れ、2人の周囲に展開する。
「な?やれたろ?」
にししと笑うソウルを見て、シナツは呆れつつも笑みが溢れる。
「ほんと……お前って奴は……」
シナツのその先のセリフは、吹き荒れる風の向こうに溶けていった。