召喚術士同士の戦い方
「【武装召喚】……?」
「そうだ。シェリーも使ってただろ?」
「あ……。あの武器の形が変わるやつか?」
黄金の太刀が大剣になったり弓に形を変えたりするあの技のことか。
「そうだ。シェリーに対抗するためには、それは必須だ。ただしあの魔法を使うのにはいくつか条件がある」
「条件?」
「あぁ。まずは召喚獣を複数持っていること。【武装召喚】は召喚獣を出している間の術者の自衛……あるいは戦闘のために編み出された技。だから複数の召喚獣を持っていないとその負荷に耐えられねぇんだ」
なるほど。それはソウルも痛いほど分かる。召喚魔法を展開している所で間合いに入られれば例え【リンク・ゼロ】を使っても魔法が使える相手と戦う時にはどうしても不利となるのだ。
マナで強化された武器で戦えるようになるというのであればその弱点を補うことができるというわけか。
「でも……何で召喚魔法を複数持つことが負荷に耐えられることに繋がるんだ?もしかしてガストとレグルスに何か負荷がかかるってことか?」
しかし、もし【武装召喚】がそんな魔法だったらできればソウルは扱いたくないのだが……。
「ちげぇよ。お前……もしかして気づいていないのか?」
シナツが呆れたような目でソウルを見た。
「お前の心に宿る魂がお前の力の起源になる。言わばお前の力に俺達の力が加算されていくってことだ。召喚獣を持てば持つほどお前自身のマナの力、容量。全てが強化される事になるんだよ」
「……え」
ガストがポセイディアになったことでソウルにガストの持っていたマナの力が追加。それにレグルスとシナツの力も加算されるということ。
つまり、今ソウルは言わば召喚獣になった3人分のマナを持っている……つまり常人の約3倍の力を持っていると言うことになるのだ。
「【武装召喚】のマナ消費は召喚獣を召喚するほど大きくはねぇ。だから召喚獣を召喚して戻した後もマナさえ残ってりゃ使えるし、逆に【武装召喚】した後でも本体を召喚する分だけのマナが残ってれば召喚獣を召喚する事ができる。ただマナを放出するマナの出入り口は召喚獣につき1つだけ。だから召喚中の召喚獣の【武装召喚】はできないし、【武装召喚】中にその召喚獣を出すことはできねぇ」
「な、なるほど」
難しい話にソウルは頭を抱えつつも何とか食いついていく。
今ソウルはガストの水のマナ、レグルスの炎のマナ、シナツの風のマナを持っている。
マナが3倍とは言ったが、それぞれの属性に使えるマナには上限がある。
例えばガストの水の力を限界いっぱいまで使えばその後ポセイディアの召喚やその【武装召喚】とやらの力を使う事は出来なくなる。
ただ、レグルスの炎のマナ、シナツの風のマナは一切使っていないのでそれらの魔法については問題なく扱えるということだ。
「だから、召喚術士同士での戦いは、いかに相手に先手を打たせるか、消耗させるかが鍵になってくるわけだ」
召喚獣は言わば切り札。
いかに先に相手に召喚魔法を撃たせて有利な召喚獣を展開するかが重要になる。
「じゃあ……俺がこないだとった手は……」
「あぁ。最悪だったわけだ」
「マジかよ……」
いくら知らなかったとは言え、格上……しかも5属性も持った召喚術士相手へソウルは無様にも召喚術を先に展開していた。
当然後出しジャンケンのように【水】に強い【雷】の属性を持ったサンダーバードで対抗されボコボコにされる羽目になった。
「だから、まずはお前に召喚魔法を切らずに戦う術、【武装召喚】を教える。それを習得しねぇとシェリーと戦うどころか同じ土俵に立つことさえできねぇってことだ」
「な、なるほど……」
ソウルはガシガシと頭をかきながら頷く。
確かに【武装召喚】でシェリーと戦い、何とか召喚魔法を先に撃たせなければ絶対に負ける。ただでさえ手数で負けているのだから。
「……ってか【武装召喚】って、武器ならなんでもいいのか?」
変幻自在にシェリーの刀は変形していたが、あれはどんな武器でもいいのだろうか?
「いや。【武装召喚】する為にはそれ専用の力を持った武器が必要だ」
「待て!?俺そんな武器持ってねぇぞ!?」
そんな特殊な武器なんか当然ソウルの手元にはない。いくら【武装召喚】の術を身につけたところでそれを扱う武器がないのであれば全くの無意味だ。
「いや。お前の持ってる【覇王の剣】には【武装召喚】への適性がある。つまり【覇王の剣】があれば【武装召喚】は扱える。だからお前に【覇王の剣】を託したんだよ」
「そうなのか!?」
そうか……だからこの剣を渡した時にシナツは『俺が持つよりおめえが持ってた方がいい』と言ったのか。
「全部準備は整ってる。だから【武装召喚】を扱えるかどうかはお前次第ってわけだ」
「そ、そうは言うけどよ……どうやってやるんだ?そんな技、ちょっとやそっとで習得できるとは……」
「安心しろ。そのために、俺はお前を連れ回して修行してきたんだ」
やれやれとシナツは呆れたように告げる。
「俺がお前に『マナの流れを感じろ』と言ったことを覚えてるか?」
「あぁ。それなら確かにやれるようになったぞ」
マナの流れを感じ、相手の技を予測したり仕込まれた魔法を感知する術。サルヴァンでレグルスと共にケインの仕掛けた罠を突破する時に役に立ったあれだ。
「それを教えたのはな、【武装召喚】するのに重要だからだ」
そう言ってシナツはソウルの手を掴む。
「……っ!?」
すると、ソウルの身体に吹き抜けるような鋭いマナが走った。
「これが俺のマナ。お前はこれを【武装召喚】する武器に纏わせるんだ」
「そ、そんなこと言ったって……」
いきなりやれと言われても、なかなかイメージが掴めない。纏わせるって……そもそもどうやってこれを扱うんだ?
「それはね、ソウル。私達を召喚した時に魔法陣を作るでしょ?あれをイメージしたら分かりやすいと思うな」
四苦八苦しているソウルに可愛らしい声がかけられる。
「ガスト!」
振り返ると、そこには相変わらず笑顔が可愛いガストと、威厳に満ちた顔をしたレグルスが立っていた。
「あぁ。召喚する時、お前は俺達のマナを全開で放出している訳だが……それを小出しにしてみろ」
「こ、小出しに……」
ソウルはシナツのマナに集中しながらマナの巡りを感じる。
なるほど、確かに言われてみれば召喚魔法の魔法陣を展開する時のあれに似ている。
まずはそれを小出しに……。
シュルルルル……。
「おい、マナが消えたぞ」
「んなぁ!?」
すると、今度はシナツのマナが消滅してしまった。
「……ほんと、おめぇは飲み込みが悪いなぁ」
「あはは……」
「何、まだ練習する時間はあるだろう。めっちりとやるぞ、ソウル」
「よ、よし!」
3人から呆れられつつもソウルはまたシナツのマナに意識を集中させるのだった。