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選択の果てに

 シナツは理解できなかった。


 ソウルは一体、何を言っている……?


 そんなすっとぼけた顔をしたシナツの胸ぐらを掴みながらソウルは言葉をぶつける。


「まだ、終わってねぇ!チャンスは残ってるだろ!こんなところで諦めんな馬鹿野郎!!」


「なっ!?」


 何を言ってるんだこいつは!?話を聞いていなかったってのか!?


「馬鹿はお前だろ!?もう終わっちまったんだよ何もかも!!全ての選択肢を間違えてくたばっちまったんだよ、分かるだろ!?」


 シェリーはもう死神として、騎士を狙う連続殺人鬼となった。


 せめて、この俺の手でケジメを取ろうとしたが最後の最後で俺はまた選択を間違えた。躊躇したんだ。


 あの時、迷わなければ俺は確実にシェリーを殺すことができた。


 甘さを見せたことで、俺はシェリーに殺された。もう何も残ってなどいない。


 その甘さも全てシナツの選択の間違い。何もかも間違えた男の無様な醜態だ。


 そんなことも分からないほどお前は馬鹿なのか?


「まだ、残ってるもんがあるだろ!?あんたの選択の中で、残された物がな!!」


「んなもんあるか!!一体そんなもんどこに何があるってんだよ!!」


 シナツは自身の無力さをは全て吐き出すように叫んだ。


 何もできなかった無様な男の無様さを、全て。


 命をかけた最後の戦いですら、自身の弱さが全てを台無しにした。


 かつて最強の傭兵【疾風迅雷】と担ぎあげられた俺の転落人生。


 もう、このヒコノ・シナツに残されたものなんて、何も……。









「まだ俺がいるだろ!?」










「な、何を…言ってやがる……?」



 ソウルの言葉にシナツは言葉を失う。



 そうだ。まだ俺がいる。


 あんたがこの6年育て上げた弟子のこの俺が。


 確かにシナツは俺のことどうでも良かったのかもしれない。召喚魔法さえ持っていれば、誰でもよかったのかもしれない。


 だけど……そうだったとしても……!



「あんたはあの日、選んでくれたんだ!俺を育てることを!そして今、俺に真実を告げることを!」



 絶望の淵にいたシナツが6年前のあの日、ソウルを拾い、育て上げてくれた。


 そう。まだ終わってなどいない。


 例えシナツがここで倒れたとしても、シナツが選び、残してくれたソウルがまだここにいる。


 最後の最後で、シナツは自分の全てを曝け出してくれた。このまま死んで全てを投げ出すことだってできたというのに、シナツはそうしなかった。


 シナツの最後の選択が、最後の希望を残している。



「あの日、あんたが俺を拾ってくれたことを間違いになんかさせねぇよ!!そして俺に全てを教えてくれたこと!!それは間違いなんかじゃなかったって思わせてやる!全部俺がひっくり返してみせる!!」



「おま……っ何言ってんだ!?まさかシェリーと戦うつもりか!?」


「そうだ!俺がシェリーを止めてやる!!」


「バカ言うな!シェリーはお前より数段強い!一度戦ったお前なら分かるだろ!?お前じゃシェリーには……」


「勝つさ!絶対に!!」


「馬鹿野郎!?何だってお前がそんなことをするんだ!?」


 たまらずシナツは言葉を荒げる。


「俺は……お前を利用してきたんだぞ!?お前の気持ちなんざかえりみようともしねぇで……!そうだってのに、何でお前が俺のケツを拭くようなマネをすんだ!?意味が分からねぇ!」


 利用されてきたってことが、分からねぇのか!?そこまでお前はバカだったのか!?


 お前なんかが俺の失態のために、何故そこまで考えられるんだ!?


 それでもソウルは折れない。


 当然だ。だって……!!



「あんたは俺を利用したと思っているのかもしれねぇ!だけどな!」



 ソウルは6年の旅路を思い出す。


 旅に出る時、シナツはわざわざツァーリンの町が見える場所に連れて行ってくれた。


 俺が夜の寒さに凍えていた時は、しれっと自分の毛布をかけてくれた。


 俺がピンチの時は必ず助けに来てくれた。


 旅を終えた後も、俺のことを気にかけて家に押しかけてきてくれた。




「シナツが、俺にしてくれたことは無くならねぇよ。シナツが俺にくれたもんは、全部かけがえのないものだった。あんたがいたから、俺は今日この日まで生きて来れたんだ。あんたが俺を、救ってくれたんだ。だから、俺はあんたのやり残したことをやり遂げたい。今までシナツがしてくれた恩を、返したいんだ!俺が命をかける理由なんて、それだけで十分だ!!」




 この6年。シナツがソウルにしてくれたこと……かけてくれた言葉。それらはみんなソウルにとってかけがえのない物だった。


 きっと、素直じゃないこの師匠は『お前のためにやった訳じゃない』って言うんだろう。


 だけどな?そんなもん、分かるよ。分かるに決まってんだろ!?例えきっかけがそうだったとしても、あんたが俺にかけてくれた愛情は本物だった!!


 俺達が旅路で築いてきた絆は本物だ!!


 そんなシナツの為になら、俺は命をかけてでも戦える。


 だから……だから……!!



「俺が、必ずシェリーを止める!あんたがやり残したことは、弟子の俺がやり切る!!シナツが俺を拾ってくれた選択が間違いじゃなかったってことを、必ず証明してみせる!!」

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