シナツの過去26【召喚獣の条件】
「エリーを……召喚獣にする……!?」
明くる日。
シナツとエリーはルーカスに相談を持ちかけた。
当然、ルーカスはその話を聞いてたまらず顔を伏せる。
「……本気、なんだね?」
「はい。あの子の力の1つになってずっと側であの子を守りたい。どうせもう幾ばくも続かない命なのですから、それならばあの子の為に使いたいのです、お兄様」
エリーの覚悟を聞いたルーカスは天を仰ぐ。
確かに、彼女の想いはよく分かる。それに彼女の最後の願い。何とか聞き届けてやりたい。
「……分かった。だけど、いくつか問題がある」
ふぅと息を吐き出しながらルーカスは告げる。
「まず、シェリーの年齢だ」
「年齢?」
「【獣の召喚術士】として、その身に魂を宿すことができるようになるのはおおよそ10歳からだと言われてる。だけどあの子はまだ4歳。まだ召喚獣を受け入れる器が完成していないんだ」
「んだと!?」
じゃあ、後6年エリーは命を繋がなければならないと言うことになる。
今のエリーの体調を鑑みると、それはあまりにも無謀だ。
「何とかならねぇのかよ!?」
「そうだね……。そもそも、この覇王がかけた【短命の呪い】の狙いは『召喚術士の親が召喚獣になることを防ぐため』なんだ」
「何だってそんなことをするんだよ?ただの嫌がらせじゃねえか」
「まぁ……少なからずそんな意図はあるとは思う。でも、それにはもう1つ明確な理由がある。それは『召喚獣の力を削ぎ落とすこと』だ」
「……?分からねぇな。何でそういう話になる?」
何故、親が召喚獣になることを防ぐということが召喚獣の力を削ぐことに繋がるのか?
「召喚獣の力は召喚獣となった者の持っていたマナの力に由来する。セイリア様の子孫である僕達にはより強い力が継承されているだろう?それに加えて、召喚獣がより力を発揮するためには、『生前の術者との絆』が重要なんだ」
「絆?」
「うん。絆の強さで召喚獣の力はより強力なものとなる。だから覇王は絶とうとしたんだよ、この世で1番強い絆となりうる関係を」
「……それが親子の絆、ということですね?」
だから、【短命の呪い】の発動期間は最長で10年。
生まれた子どもが親から魂を受け取ることがないように。そして、愛する我が子にその身を捧げることすら許さずに殺してしまおうとする悪意のために。
「ふざけた真似してくれるじゃねぇか」
命を削る理不尽な呪いに飽き足らず、最後の我が子への想いまでも踏みにじるその呪いにシナツは苛立ちが隠せない。
この呪いはどこまで俺達の想いをコケにしたら気が済むんだ。
「だったら……私はあの子の力になる事はできないのですか?」
悲痛な顔でエリーはルーカスに問いかける。
「……分からない。何か人智を超えるような技があれば、何か方法があるかもしれないが」
そう言ってルーカスは考え込むように腕を組む。その顔はとても険しく、エリーの願いを実現させる困難さを物語っている。
人智を超えるような技……。そんな都合のいいものがそう易々と転がっては……。
「……っ!」
シナツの脳裏にある老婆の姿がよぎる。
「……ルーカス、エリー。ちょっと数日里を抜けるが構わねぇか?」
「え……?それはいいけど、一体何を……?」
「……1つ、アテがある」
そう言ってシナツは家を飛び出して、東の方角へと飛び去った。