シナツの過去25【最大限の気持ち】
召喚魔法のエネルギー。それは人の魂。
かつてエリーから伝えられたことだ。
彼女の言う【人柱】とは即ち、その召喚魔法の礎となって、その身を召喚獣へと変えるということを意味する。
「な、何言ってんだ!?そんなことしたらお前……」
「はい。つまり私は召喚獣になるということです」
「そんなこと、できるわけねぇだろ!?お前をそんな何かも分からねぇ化け物にして死なせるなんてこと!!」
召喚獣なんて、訳の分からない化け物にさせられないし、そんなもの見たくない!
愛する妻が、愛する娘の戦いの道具。マナで作られた獣に姿を変えてしまうなどシナツには到底耐えられるものではない。
「いいえあなた、私は死ぬわけじゃありません。獣となって生き続けるのです。あの子の……シェリーの中で」
そんなシナツにエリーは告げる。
「私はセイリア様の子孫として……そして、シェリーの母として。未来を……あの子を守ると誓ったのです。そのためになら、この身を捧げたい。召喚獣として、ずっとあの子の中で生き続けていたいのです」
「……っ」
静かに、そしてどこか力強いその目を見てシナツは返す言葉が見つからなかった。
このままエリーが死んでしまったとするのなら、もう何も残らないだろう。だが、召喚獣となったのならば彼女の力の1つなることができる。
例えその身が朽ちようと、魂だけはあの子の中で共にあることができる。
「……ずっと、考えてはいたのです。いずれ死にゆく私があの子に何を残してあげられるのか。きっと、それは言葉や想いだけじゃない。この力なのだと。それが、私の最後の役目なのだと」
「エリー……」
ギリリと歯を食いしばるシナツは逡巡する。
確かに……俺だって、エリーの立場なら同じことをするかも知れない。
シェリーのためにこの身を、この命を捧げることができるのなら。そしてそれがいずれあの子の未来を切り拓いていく礎となってくれるのなら。
シナツは迷うこともなく、それを選択するだろう。
「……分かった」
絞り出すような声で、シナツは何とかエリーの意志を受け止める。
心が削り取られるような錯覚を起こしつつも、そっとエリーの頭を撫でる。
そんなシナツの心は、妻のエリーには手にとるように分かる。
だから、伝えた。最大限の気持ちを、最低限の言葉で。
「……あなた。ありがとう」
きっと、深く語ればシナツの想いも、そして私の決意も揺らいでしまうと思ったから。