シナツの過去23【いつか】
散々オーウェンの黒歴史を掘り漁った後、シナツとシェリーは帰路についていた。
「楽しかったか?シェリー」
「はいっ。オーウェンお兄様、すっごく恥ずかしそうで可愛かったです」
ニコニコと楽しそうにスキップする娘を見て、シナツはふっと笑みが溢れる。
シェリーが生まれて、もう4年。
あっという間だった。
あと、何年こうしてこの子の成長を見ていられるのだろう。
残された時間は、後6年……いや、もしかするともっと短いのかもしれない。
長老曰く、シェリーに【獣の召喚術士】の力が宿っていることはほぼ確実らしい。
この笑顔の素敵な優しい少女に、世界の命運をかけるような重責を負わせてしまったのかもしれない。残酷な事をしてしまったのかもしれない。
そして、この子が成長したその時。
きっと俺もエリーも。この子のそばにいてやれない。
だが、それでも。シェリー。
「なぁ、シェリー」
「はい、何ですか?お父様?」
ダンスでも踊るかのようにクルクルと回りながら、シェリーはこちらに笑顔を向けてくれる。
その眩しすぎる笑顔に目頭が熱くなりながらも、シナツは優しくその頭を撫でた。
「例え、この先に何があっても忘れないでくれ。俺はお前のことを愛しているってことをな」
「……?はい」
まだ難しいことの分からないシェリーは小難しそうに首を傾げながらもコクンと小さく頷いた。
ーーーーーーー
里の外れの方にある小さな一軒家。
シナツとエリー、そしてシェリーの家だ。
「帰ったぞー」
「ただいまです!お母様!」
いつものように木で作られた質素な扉を開き、中に声を呼びかける。
そして、いつものようにエリーの優しい「ただいま」という声が出迎えてくれる。
はずだった。
「……?」
「お母様ー?」
何故か家は夕暮れ時だと言うのに真っ暗で、エリーの姿がない。
まだ帰っていない……?いや。あいつはいつもこの時間には帰って飯の準備をしているはず。
胸の奥に苦い感情が湧く。
たまらずバッと家の中に飛び込むとそこには。
「エリー!!!??」
床に崩れ落ち、意識のないエリーの姿があった。