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シナツの過去16【誓い】

 エリーを受け止めた瞬間、左腕が木の枝で抉れる。


「ぐ……っ」


 シナツは堪らずズキリと痛む左腕を掴んだ。


「あ…あぁ、ごめんなさいシナツ様!?私の体重……そんなに重かったでしょうか!?」


「気にするとこはそこかよ!?別に重かねぇよ!お前ぐらい!!」


「あぁ、よかったです」


「おい!?」


 相変わらずほんわかとしているエリーを見てシナツはガックリと気が抜けてしまう。


「って、そんなこと気にしてる場合じゃねぇ!?」


 こんな隙を見せてしまえばレイオスにやられて……。


「大丈夫です」


 すると、エリーはそっと微笑みながら告げる。


「死ねぇ!【デス・ハンド】!!」


 レイオスが咆哮しながら魔法を放つ。



 誰もいない、明後日の方向に。



「!?」


 シナツはそんなレイオスの姿に目を丸くする。



「ふふふ。私の魔法です」



 そう言ってエリーは再びマナを溜める。



「【水鏡】に【分身】のマナ【水面(みなも)】」



 バララララッ!


「何!?」


 レイオスの周りを囲むように鏡のような壁が展開した。



「私達の魔法です。強い攻撃力は無いのですけれど、幻を生み出したり、敵を翻弄することに長けた魔法です」



 見ると、レイオスの黒い手の先にはシナツとエリーの姿があり、それをズボォッ!という音と共に貫いていた。


 溶けるように消えるシナツと、周囲を取り巻く鏡のような魔法にレイオスは明らかに動揺している。


「な、なるほどな」


 ふぅと冷や汗をかきながらシナツは一息ついた。エリーはそんなシナツの横に座る。



 ビリビリビリッ



「ぶぅっ!?」


 そして、突然エリーは自身のスカートの裾を破り始めた。


「ばぁっ!?何やってやがる!?露出狂かよテメェは!?」


 【短命の呪い】の時といい、何でそう簡単に肌を見せようとするんだお前は!?


 慌てて目を逸らすシナツに対し、エリーは破いた裾をぐるぐるとシナツの左腕に巻いていく。


 あ、あぁ。手当てしようとしてくれていたのか……。


「……申し訳ありません。私を助ける為に、こんなケガをさせてしまいました」


 見ると、普段明るい姿しか見せないエリーが、初めて落ち込んだように俯いていた。


 その姿はいつもの天真爛漫とした明るさも元気さもなく、とても心許ないようにシナツには見える。


「……だから、せめてこれぐらいさせてください。まだ私の魔法でもつはずです。そうしたら逃げてくださいね?」


「あぁ?何言ってやがる?」



「どこだぁ!?【獣の召喚術士】ぃ!?」



 向こうのほうで、翻弄されるレイオスの声を遠目に聞きながらシナツはエリーに問いかける。


「……あなたを私の事情なんかに巻き込む訳にはいきません。ずっと、自由に生きてきたのでしょう?」


 シナツの腕を巻く手をぎゅっと握り締めながらエリーは告げる。


「あなたは……とても強い殿方です。使命という枷から飛び出して、世界を巡るあなたはとても素敵だと思います」


「お前、前と言ってることが違うじゃねぇか」


 エリーの言葉に少し動揺しながら問い返した。


 緑の瞳がどこか儚げにシナツを見つめ返す。


「……私も、考えたのです。自由に生きるあなたを見て。本当は私が逃げただけなのではないかと。使命という最もらしい言葉を逃げ道にして、抗うことを諦めたのではないかと……だから、私はあなたの事がすごく……強く、輝いて見えるのです」


 エリーは自分が抱えていた感情を吐き出す。


 自分の生きる道を切り開くシナツと比べ、動く事を恐れて次の道を探せないでいるエリー。


 誰がどう見ても、シナツの生き方の方が素敵だと、エリーはそう感じていたのだ。



「バーカ」



 すると、シナツはガシガシとエリーの頭を撫でた。


「……お前はすげぇ奴だよ、エリー」


「……え?」


 シナツの言葉にエリーはポカンとしている。


「逃げたのは……俺の方だ。お前は立ち向かったんだよ。【使命】なんて身勝手なもんをなすりつけられても、それを投げ出さずに前を向いたお前は、誰よりもすげぇと俺は思う」


 フラリと立ち上がりながらシナツは言葉を続ける。


「お前は俺を素敵と言うが、俺はお前の方が強くて、輝いて見える。羨ましくさえある。例え、世界の誰がお前のことを逃げたなんて言ったとしても、俺はそうは思わねぇ」


 不条理な使命を押し付けられてなお、彼女は前を向いて生きている。


 運命に悲観することも、恨むこともなく。むしろ自分達を生かしてくれた過去の偉人達を敬ってその使命を引き継いだ。


 それは、使命から逃げた俺なんかと比べようもないほど立派なことだ。


「だから……俺は決めたぜ」


 そう言ってシナツはマナを溜める。


「っ!そこかぁ!!」


 シナツのマナを感知したのだろう。


 レイオスもシナツの方を向き、マナを溜めてくる。


「いいか、エリー。2度は言わねぇ。よく聞け」


 そんなレイオスに迎え撃つようにシナツは刀を構えて、告げる。



「俺は……エリーを守る為に戦う。ババァに言われたからでも、依頼をされたからでもねぇ。俺の意思だ。俺が全てを捧げてもいいと思えるお前に出会えたから……全てをかけて守りたいと思えるお前を見つけたから、その為に生きる」



「〜〜〜〜〜っ!」


 エリーの顔が真っ赤に染まる。


 そんなエリーの反応に少し照れ臭さを感じながら、シナツは詠唱した。



「疾風迅雷の速度で敵を断つ。疾風の如き斬撃よここに顕現せよ!【疾風】に【音速】のマナ!!」



「上等だ!死の風よ、全ての生命を無に帰す永久の闇を生み出せ!!【死風】に【死神】のマナ!!」



 静寂に包まれる森の中、2人の戦士の詠唱が轟いた。



 そして互いのマナが溢れ出し、周りの草木を激しく揺らす。それらは互いの術者を包み込み、それぞれの魔法を展開する。



「【風迅】!!」


「【グリム・リーパー】!!」


 レイオスのドス黒いマナが1つに収束し、黒いローブとドクロの顔。そして巨大な鎌を担いだ死神を生み出した。


 対するシナツは身体にはち切れんばかりのマナを溜め込む。そのあまりの強さにマナを抑えるのでカタカタと刀が震える。


「オオオオオオオオオオオオオ……」


 そんなシナツに死神(グリム・リーパー)が鎌を振り振りかぶる。


 しかし、シナツは全く微動だにしない。


「シナツ様!?」


 エリーの悲痛な叫びが聞こえ、まさに死の鎌がシナツの身体を切り裂こうとした、その瞬間。




 ゴッ




 吹き荒れる嵐。


 瞬きの間にシナツの姿は消え、代わりに真っ二つに切り捨てられた死神の姿があった。



「……え?」


「な……?」



 エリーとレイオスがそれを目の当たりにした、その直後。




 ザン!!




 死神が切り捨てられる音が遅れてやってきた。

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