奇襲
シーナはゾッとした。
このガイコツを操る術には見覚えがある。いや、忘れるわけもない。
「.......なんで、ここに?」
「な、なんだこいつら!?」
「取り敢えず、友達になりたいわけではなさそうだね」
ソウルとレイは剣を構える。
「ひっ、ひいい!?」
周りの騎士達も慌てて臨戦態勢に入った。
「【闇】のマナ!顕現せよ!【骸の剣】」
レイが詠唱を始めると、レイの剣にマナが集まり剣が変貌をとげる。
それはレイの身の丈ほどの大きさの刃の大剣で、持ち手の先にはドクロがついており、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「趣味の悪い魔法だな」
「うるさいよっと!」
レイはその剣で近くのガイコツに切りかかる。魔法の力は凄まじく、ガイコツ達が握る武器ごと両断した。
「ふっ!」
ソウルも負けじとガイコツに切りかかる。
ガキン!
だがソウルの攻撃はガイコツの頭蓋骨に弾かれた。
「うお!?」
そして剣を弾かれて隙ができたソウルにガイコツの横切りが飛んでくる。
「くっそ!?」
ソウルは剣を無理やりガイコツの横切りの軌道に合わせた。
「がっ!」
しかし、不安定な体勢で受けたことでソウルは地に転がる。ガイコツ達はマナの力を受けているのだろう。人間以上の力だった。
「.......っ」
シーナはソウルを追いかけようとするガイコツを蹴り砕いた。
「すまん。助かった」
ソウルは慌てて体勢を整える。
「.......足手まといだから、下がってて」
シーナは不機嫌そうだ。
「だ、大丈夫だ。油断しただけだから」
ソウルはそう言ってまた目の前のガイコツに飛び込む。
「ア.......ァァァ」
ガイコツがソウルに向けて剣撃を放つ。
ソウルはそれを剣で受け流す。そして剣を振り切ったガイコツはバランスを崩した。
「っ!そこだ!」
さっきは考えなしに切り込み弾かれたが、今回は骨と骨の隙間を狙って攻撃を放った。すると剣は上手く骨の間に突き刺さり、ガイコツの首をはね飛ばす。
「やるじゃないか」
レイは武器ごとガイコツを葬りながら告げる。
「なんか、嫌味っぽく聞こえるのはなんでだろうなぁ!?」
「.......」
シーナも武器ごとガイコツたちを蹴り砕いていく。魔法を使っている様子はない。【ジャガーノート】の力はすごい。
しかしそれでも通路のガイコツたちの数は減らなかった。
「囲まれるのは時間の問題だな!」
ソウルは目の前のガイコツの剣を弾きながら叫ぶ。
「くっ、さすがにこの数はしんどいなぁ」
レイも30はガイコツを切り飛ばしているがらちが明かない様子だった。
「ファ、【ファイアボール】!」
すると1人の見習い騎士が魔法を放つのが見える。
火球は一直線にガイコツへと飛来し、弾けた。しかしガイコツ達はビクともせずに騎士に襲いかかってくる。
どうやら他の騎士達も同様に魔法が通じていないようだった。
「魔法が効いてないみたいだね」
「多分、あいつらっ、闇のマナで動いてるんだと思う」
ソウルはガイコツの剣撃を受けながら答える。
おそらく闇のマナで動かされている影響で光と闇以外の魔法耐性が付いているのだろう。ソウルのマントと同じ仕組みだ。
「光か闇の魔法か、物理攻撃か.......もしくは耐性をぶっ飛ばすほどの魔法を使うかってところだな!」
召喚魔法を使えば状況は好転する。だがもうここにソウルはいれなくなる。果たして今使うべきなのか?その時だった。
「.......ねぇ」
シーナが切り出す。
「なんだ!?」
「.......今から私が道を切り開くから、2人はエレナを連れて逃げて」
「切り開くって.......どうやって!?」
ソウルは目の前のガイコツの腰骨を叩き割りながら尋ねる。
「.......私の魔法を使う。きっと上手くいくから、信じて」
シーナはガイコツにかかと落としを食らわせながら告げる。
「よし!分かった、頼む!」
ソウルは即答する。シーナは少し驚いた顔をするがすぐに傍のガイコツをまた蹴り砕いた。
「ま.......待ってくれぇ、私達を.......見捨てないでくれぇ」
すると、ヨーゼフがソウルのマントにしがみついてくる。
「.......あれだけのことをして、助けて貰えると思ってるの?」
シーナはギロりとヨーゼフを睨む。
「たっ、頼むぅ!この通りだ!!」
ヨーゼフは土下座する。
「分かった。おれが連れていくよ」
「ソウル!?」
シーナは信じられないものを見るような目でソウルを見た。
「確かに、こいつらは大っっ嫌いだけど.......おれは、騎士になったんだ。だからこんなやつらでも、助けるよ」
ソウルの目は真っ直ぐだった。
レイはやれやれとため息をつくが、笑顔になる。そしてまたガイコツを斬り飛ばす。
「あー、そうだな。私の肩を刺した罰も償ってもらわなきゃならないしなー。ほんと後で覚えてろよ?」
エレナもふてぶてしく告げる。
「.......」
シーナはただただ目を丸くするしかない。
さっきまで争っていた相手を助けるだなんてどうかしている。どうかしているはずなのに.......。
「.......分かった」
シーナは頷く。不思議と反論は無かった。
「ありがとう。ただ、危ないことは.......」
ソウルが心配そうに声をかける。
「.......大丈夫」
そう言うとスゥと息を吸ってシーナは詠唱を始めた。
「.......我が魂に応えなさい。灼熱の炎を振るい、敵をうち滅ぼさん」
「え、ちょっと待って?その詠唱は.......!?」
エレナが声を上げる。
「.......顕現しなさい【火聖剣】のマナ.......【朧村正】!」
シーナの手にマナが集まる。それは徐々に刀の形となり、パァンと弾けた。
そしてシーナの手には刀身が80㎝ほどの太刀が握られていた。
その刃は緋色に輝いており、近くにいるだけで刃が持つ熱が伝わってくる。
「せ、聖剣って.......」
「.......話は後。一気に行くから準備して」
シーナは通路に向けて刀を向ける。ソウルはヨーゼフを担ぎ、取り巻き達がマイケルを運ぶ形となる。
「みんなも聞いたね!?一気に駆け抜けるよ!」
レイが周りに呼びかける。
「おぉー!」と周りから声が返ってくる。
「.......【放出】のマナ.......【焔】!」
聞きなれないデバイス・マナの詠唱とともに朧村正の先端から熱線が放たれた。
ゴオッ
それは通路のガイコツ達を焼き払い一瞬で塵に変える。ソウルはあまりの熱に目を開けることができない。
通路のガイコツが一撃で全て消滅した。その事実に3人は言葉を失う。
「っ!今だ!」
レイは思い出した様に叫び先頭に立って駆け出す。
そうこうしている間にもガイコツ達がボコボコと床から湧いてこようとしていた。
ガイコツが湧き切る前に壁画の間を抜けて大広間に出る。
そこでも同様にガイコツと格闘しながら脱出を試みている他の騎士たちの姿があった。
そして出口には見慣れない女が立っていた。そして彼女の足元にはいくつもの騎士の屍が転がっている。
「.......どうやら、今回の騒ぎの元凶は彼女みたいだね」
「取り敢えず、あいつを突破しないことには脱出もままならねぇな」
「なんでここまで攻め込まれてんだよ!地上の護衛班は何やってたんだ!?」
エレナは頭を抱える。
「最悪、地上も制圧されているかもしれない。この先も考えないと.......」
レイの指摘はもっともで、いくら見習い騎士を含むとはいえ地上には20人以上の騎士が派遣されていたはずだ。それも熟練のカスパルを含んでである。
それにもかかわらずここまでの侵入を許している時点で地上部隊は制圧されてしまった可能性が高い。
「敵はあいつだけじゃない。その先もいるはずだよ」
「.......ごめんなさい」
すると突然シーナがボソリと漏らした。
「え?」
「.......きっと、私のせいだ」
シーナは険しい表情をしている。
「どういうことだい?」
レイがシーナに問いかける。
「.......きっと地上は大丈夫。あいつは単独犯だと思う。そして、狙いは私だ」
そう言うとシーナは女の方へと歩を進めた。、
「なんでシーナが?よく分かんないぞ!?」
エレナは状況が理解できずにさらに頭を抱える。
「.......それは」
シーナは言いたくなさそうに告げた。
「.......あいつは、私の妹だから」
「「「はぁ!!??」」」
ということは、あの女も【ジャガーノート】なのか!?それにそれよりも気になることがある。
「なんで妹がお前を狙うんだよ!?」
「私が」
シーナは目を伏せる。
「私が、あいつの父親を殺したから」
そう言い残し、出口で待ち構える女に向かって駆け出した。