シナツの過去13【事件2】
シナツは頭をガシガシとかきながらため息をつく。
勝手にしやがれ。勝手にやって勝手に滅んでろ。
そんな怒りの感情がシナツの頭を支配していた。
俺は忠告してやった。それを切り捨てたのはあいつらだ。俺にはもう関係ない。
すると、シナツの頭に1人のハイエルフの顔が浮かんだ。全く、何でこんな時にあいつの顔が頭に浮かぶんだ。
「どうせ、こんなこと言ったらまたあの女は色々言うんだろうけどな……」
そう言ってまたため息をついて……そこで気がついた。
「……エリーとルーカスはどこだ?」
あれだけ里が騒然となっていたというのに、何故あの2人はあの場にいなかったのだろう?
違和感に気がついたシナツはエルフの里を駆け、ルーカスの家の扉を開く。
勢いよく開け放たれた扉の向こうは真っ暗で、人の気配はない。
いない。あの門の集団の中にもいなかった。
「……マジかよ」
嫌な予感がする。
考えろ。里の危機だ。あいつらならきっと1番重要な物を守りにいくはず。なら、きっとあそこか。
今度は【覇王の剣】の封じられたあの部屋へと向かう。
駆け抜けていく里の中、皆門のところに釘付けらしい。シナツ以外誰もいない。
これでは防備もクソもないじゃねぇか。
「なっ!?」
【覇王の剣】か納められた部屋の扉が乱雑に開いたままになっている。
まさか……!?
慌てて中を確認するとそこには地に倒れる2つの影があった。
「おい!ルーカス、イーサン!?」
シナツは倒れ込む2人に呼びかける。
「く…シナツ……か」
ルーカスは力無い声で答える。
「何があった!?おい、答えろ!!」
「やら…れたよ。最悪の事態だ……」
そう言ってルーカスは視線を部屋の中央に移す。
「……っ!!」
そこにあるのは剣が納められていたはずの台座。
だが、それは無惨にも打ち砕かれそこにあるはずの黒剣は姿を消していた。
「マジかよ!すぐにでも取り返さねぇと……」
「それだけじゃない……」
よろりと身体を起こしながらルーカスは告げる。
「エリーが……エリーが、連れて行かれた……!」
「な……に……?」
ルーカスの言葉にシナツは足元から崩れ落ちるような錯覚を起こした。