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シナツの過去11【侵入者】

 暗い森の中、男は森の中を進んでいた。


 逆立った灰色の髪とどこか知的さを感じさせる丸眼鏡。黒いローブに身を包んだその姿はまるで死神のようで歳のせいか少し痩せこけた顔をしているが、その人を殺せそうなほど鋭い眼光が、男の威厳を感じさせる。


 我らが任務のため。いや、我が使命のために男は木で生い茂る森をスタスタと歩く。


 周囲の木々が男の侵入を阻むように枝を伸ばすが、男を取り巻く黒いマナが草木をジュウ……と腐らせる。


「レイオス様。こちらの方がマナの濃度が濃くなってあるようです」


「ご苦労。ならばそちらにユグドラシルがあるに違いない」


 部下の言葉に従い、レイオスは進む方向を変える。


「……ん?」


 だが、その先にあったのはマナを放出させる魔石の山。


「……おい」


「ひっ。も…申し訳……」



「【デス・オーラ】」



 レイオスの周囲を黒いマナが走る。


「ご…あぁあ……」


 レイオスの周囲の草木は炭とも何とも分からないものとなって消滅。


 部下だった者は肉が腐り落ち、ぼとぼととその場で崩れ去ってしまう。


 他の者はその光景にゴクリと息を呑んだ。


「役に立たないものはいらない。生き延びたければ役に立て。さぁ、次」


 後ろで控える部下達にレイオスは言い放つ。


「……っ」


 皆、たまらず二の足を踏み、黙り込んでしまう。



「……君達もいらないねぇ」


 そう呟きながらレイオスは右手を部下達に向ける。


「っ!?ま、待ってください!私が……」



「【デス・ミラージュ】」


ーーーーーーー


 オーウェンは震えていた。


 目の前で起こった凄惨な状況にただ体を小さくして震え上がるしかない。


 侵入者。


 それはここ最近ちょっかいをかけてきていた男だ。


 ついに徒党を組んで森に入ったかと、兄のローガンと共に監視していた。


 だが、男はまるで虫を殺すかのように部下の命を奪い、どこか楽しそうにすら笑っている。


 やばい。


 強さとか、そういうものじゃない。


 ただ奴は危険だと、本能が全力で警報を鳴らしていた。


「……さて」


 一仕事終えた労働者のように一息をついたレイオスはグルリと視線をこちらに向ける。



「いるんだろう?エルフのガキども」



 ローガンとオーウェンは心が凍りつくのを感じた。


 バレた!?


「……行け、オーウェン」


 震える声で兄は言う。


「里に……走れ。あの男が里に来れば、全てが終わる。危険を里に知らせるんだ……」


「ま、待ってくれよ……兄さんは……?」


 弟にそう言いながら兄は弓をつがえる。


「だ…だめだ!兄さんも……兄さんも一緒に」


「2人で戦っても勝てない!分かるだろ!?もうお前も14なんだから!!」


 泣きそうな顔の弟に兄は叫ぶ。


「お前は、優秀なんだから。きっと里の立派な戦士になれる。だから行け、ここは兄に任せるんだ」


 覚悟を決めたローガンは身体にマナを纏わせる。


「い、嫌だ……兄さん……」


「さて……こないならこちらから行かせてもらおうか」


 次の瞬間。目の前にレイオスがいた。


 ほんの一瞬。


 瞬きの間に目の前に迫り、獲物を狩る獣のような目で2人を一瞥した。



「行けぇ!!オーウェェェエン!!」



「う、うわぁぁぁぁあああ!!!!」



 オーウェンは駆けた。


 兄の怒号を背中に受けながら、ただ暗い森の中を走り抜ける。


 後ろで兄が戦う音が聞こえる。


 大丈夫だ。きっと兄なら切り抜けてくれるはず。


 願うようにそう思いながら、オーウェンはただ真っ直ぐに里に向かって走った。


ーーーーーーー


 いつもの里への帰り道が、とても長いものに感じる。


 まだか……。まだユグドラシルは見えないのか!?


 天をも穿つほど巨大なユグドラシルには特殊な結界が貼ってある。


 ある一定の距離からは視認できないのだ。だから、ユグドラシルへの行き方を知らなければ辿り着くことはできないのだ。


 そうやって、この1000年もの間ユグドラシルは外界から守られてきた。


 だが、それもここまでかも知れない。


「あいつだ……!絶対にあいつが里に来たせいだ……!!」


 それを破った唯一の人間。


 エルフの里に突如現れた人間。


 あいつもあのレイオスとかいう男の仲間に違いない。


 このままではユグドラシルが危険だ!


「っ!見えた!!」


 オーウェン視界に輝きを放つ木々達が現れる。


 残りの帰り道をオーウェンは振り返ることもなく全力で駆け抜けた。




 その背後を追うものに、気付くこともなく。

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