シナツの過去8【エルフの使命】
エルフの里に出ると、もう噂は広まっているのだろう。エルフ達は嫌悪の目でシナツを、そしてエリーのことを見ていた。
シナツがそのような扱いを受けるは分かるが、何故エリーもそう言う目で見られているのだろうか。
俺を庇ったからか?いや……今思えば長老の家に向かっている途中からそんな感じはした。
てっきり俺にだけ向けられた敵意と思っていたが、どうやらその辺りも複雑な事情がありそうだ。
「私と兄様、そして長老はあるお方の末裔と言われていますの」
前を歩くエリーは振り返りながら語り始める。
「あるお方?誰だよ?」
「それは、初代【獣の召喚術士】。セイリア様です」
「セイリア……?聞いたことねぇな。それに召喚術って……」
「はい。イーリスト国では禁術として指定されています」
「じゃあ、お前も召喚魔法とやらが使えんのか?」
「いいえ。私には扱えませんわ」
シナツの言葉にエリーは首を横に振る。
「セイリア様はハイエルフと人間のハーフだったと言います。そして彼女の血族で【召喚魔法】に目覚めたものは彼女と同じハイエルフと人間のハーフ……」
「つまり、ハイエルフとしての力を失う代わりに召喚魔法に目覚めると……そういう事か?」
「はい。ですからセイリア様の血族であるハイエルフ達は力を求めて人と交わり、結果残されたのは私達の一家だけなのです」
そう言ってエリーはため息をつく。
「そんな禁忌の力……何でそこまでして追い求めたくなるもんかね」
「簡単な話です。セイリア様はかつて覇王を倒した伝説の七賢者のうちの1人……。その彼女と同じ力が欲しいと願ってもやむを得ない話ですわ」
「覇王を止めた七賢者……?待て。覇王を封印したのは七聖剣の使い手だろ?七賢者ってなんだ?」
シナツが教えられてきた歴史と違う。
仮にそのセイリアとやらが聖剣使いなのだとしたら、その女は召喚魔法と聖剣の両方を使えると、そういうことか?
「それは……私達にもよく分からないのです」
困惑するシナツにエリーも困ったように笑いながら言った。
「なにせ、約1000年も昔の話。それも口伝でしか語られてこなかったその話では一体何が真実で、何が偽りなのかも……もう当時のことを知る者は誰一人として生き残ってはいないのですから」
「……」
イーリストの歴史が間違っているのか、はたまたここのエルフの一族の歴史が間違っているのかは分からない。
いや、まさか両方間違っているなんて事もあるかもしれない。
それに、今重要なのはそれではない。
「じゃあ、お前とルーカスがそのセイリアの子孫だってことは分かった。なら何でお前はハイエルフなんだ?それにルーカスの言う呪いとか使命ってのは何だ?」
「セイリア様は特別な存在で、彼女は人と交わってもハイエルフの力を強く引き継いでいたそうで……。そして私たちの使命についてお話ししようと思ってここにお連れしたのです」
そう言ってエリーは足を止める。
見ると、そこはユグドラシルの中心。
そこには1つの扉のようなものが取り付けられていた。
「何だこれは?」
「この奥には、ある神器が封印されています」
そう言ってエリーはギィイ……と重い木の扉を開く。
中には淡い緑の光を放つ魔石灯。
そこはユグドラシルの木々が幾重にも重なり1つの小さな部屋を作り出していた。
そしてそれらのユグドラシルの木々が何かを取り巻くように部屋の中央でグルグルと螺旋状に絡まり合っている。
「何だ……?」
目を凝らしてみると、そこには1本の黒い剣がユグドラシルに巻き付かれて鎮座していた。
「あれは、覇王の三神器の1つです」
「覇王の三神器だと!?」
そう言ってエリーは魔石灯でできた松明を片手に部屋の中へと足を踏みいれる。
「あれは覇王のあらゆる敵を撃ち倒す覇者としての顔。それを表した三神器の一角【覇王の剣】です」
「【覇王の…剣】……」
まさか……?1000年前の伝説の魔法使いの痕跡が、こんなにはっきりとシナツの前に現れたのは初めてで、理解が追いつかない。
1000年前の戯言だと馬鹿にしていた昔話が、今現代シナツの前に蘇り、うっすらと鈍い光を放ってシナツを出迎えている。
「ここに住むエルフの使命……それはこの【覇王の剣】を封印し、守ること。そして【1000年後の約束の日】に備え、私達が持つ【獣の召喚術士】の因子を繋ぐことなのです」