シナツの過去7【ハイエルフの一族】
「さぁ入ってくれ。ここが僕の家だ」
長老の家を後にしたシナツはエルフの里の端の方にある小さな家へと案内された。
どうやらここがルーカスの家らしい。
「まさか僕がエリー以外の者を家に呼ぶことになるなんて、思っても見なかったからね。狭くても勘弁しておくれよ」
ルーカスの家は本当に必要最低限の物しか備え付けられておらず、部屋も一部屋。所々すきま風が入ってきて極安の宿の方がもっとマシなぐらいだと思えるほどだった。
「まぁ……いいさ。贅沢は言わねぇ。それよりさっきは悪かったな」
頭をガシガシとかきながらシナツはルーカスに礼を告げる。
あの混沌とした場を収めたのはルーカスのおかげ。あのままでは埒のあかない問答に日が暮れていたことだったろう。
「なに。うちの妹が君に興味があるようだったから」
「妹……エリーのことか?」
「そうだ。よく分かったな」
「まぁ、特徴がな」
この里のエルフ達は金色の髪をしているのに対し、このルーカスとエリーは何故か水色の髪をしている。
皆の反応的にも2人は何か特別な存在なのだろう。
「そうだ。僕たちは『ハイエルフ』なんだよ」
「ほぉ……」
聞いたことがある。エルフの中でも特に妖精として上位の存在。
伝説上の存在だと思っていたし、実際にそう教えられてきたが……。
「ハイエルフはこのエルフの里では僕とエリー、そして長老の3人しかいない。もうすぐ滅びゆく定めの種族なのさ」
「じゃあ子どもを作ればいいだろ?」
「いや。ハイエルフはハイエルフ同士じゃないとその性質は引き継がれない。普通のエルフと同じになる。だからもう無理なのさ。僕とエリーは兄妹だし長老は僕らと遠い血縁関係にある。僕らに残された道は他のエルフと交わってハイエルフの力を失わせることだけだ」
「……そうかよ。でもえらく深刻じゃねぇか」
いくら同族同士でないと子孫を残せないとはいえ、ルーカスの一家以外全てのハイエルフが滅ぶなんて……どうしてそのような事態に陥ったのだろうか。
「それだけじゃないんだよ」
ルーカスはどこか暗い影を落としながら告げる。
「僕らの家系にはある呪いがかけられていてね。他のハイエルフ達は気味悪がって僕らを敬遠したんだ。そしてみんな隣のシンセレスへと渡っていった。数少ない子孫を残すために……ね」
「それはまぁ……何とも。だが、何でお前ら兄妹はここに残ったんだ?」
そうなってくると、何故ルーカスの一家はこのユグドラシルに残ることに決めたのだろう。
ここに残っても、ただ滅びを待つしかないと言うのに。
「……それはこの里の存在意義にも関わる話。僕よりも妹に聞いた方がいい」
そう言ってルーカスは家の扉をガチャリと開く。
「さて、エリー。シナツにこの里のことを教えてやってくれ。僕はおしゃべりは苦手だから……君の方が適任だろう?」
「まぁ。流石お兄様。気づいていらしたんですね」
ひょこりと扉の影から先程のハイエルフ、エリーが中を覗き込んできた。
「きっと、彼には情報が必要だ。何故我々がここにいるのか。そしてどう言った役目を背負っているのかを……ね」
「分かりましたわ。それではシナツ様、参りましょう」
「お、おい待てよ。参るって……どこ行く気だ!?」
エリーは遠慮なくグイグイとシナツの手を引いて家の外へと誘う。
「私達がどういう使命を背負っているのか。そして、何故私達がここを守って生きているのかをお話ししますわね」
そう言ってエリーはシナツを外へと連れ出した。




