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シナツの過去4【森の攻防戦】

 ドシン


「ぐっ、はぁ!?」


 1人のエルフが地に落ちていく。それを追いかけてシナツはそのエルフの側へと着地した。


「へぇ、若いエルフじゃねぇか」


 見ると、そこにいたのは緑のフードを被り、布で口を隠した若いエルフだった。


 人間で言えば14〜5歳ぐらいだろうか?


 その右手には木でできた弓が握られており、先程からこれでシナツを攻撃してきていたのだろうと言うことが分かる。


「く……殺せ!」


 エルフは潔く弓を投げ捨てると、そのまま両手を上げて降参のポーズを取る。


 その目は敵意丸出しで、何かされるぐらいならば死を選んでやる!と言わんばかりの態度だ。


「だからよ。お前さんと敵対するつもりはねぇっつってんだろ?」


「黙れ!そう言って人間共は我々妖精の民を蔑ろにする!そんな口車になど乗せられはせんぞ!」


 やれやれ、これでは交渉の余地もねぇと呆れそうになる。


 まぁ、ここでこのエルフを殺したとしても何も進展しない。転がった弓をひょいと拾い上げながらシナツは目の前のエルフに質問を投げかけた。


「お前、名前は?」


「人間なんぞに語る名などない!」


 おーう、とりつく島もねぇ。


「だったらいいさ。もう追ってくんなよ?こっちはこっちでユグドラシルを探すから」


「なっ!?ユグドラシルをだと!?」


 シナツの言葉に青ざめた様子で目の前のエルフが叫ぶ。


「やはりここで貴様を逃すわけにはいかない!命に代えてでもお前を殺す!」


 そう言うと目の前のエルフはマナを溜め、シナツに雷撃を飛ばしてくる。


「おいおい。少しはこっちの話も聞けってんだ。俺はお前らと敵対する気はねぇよ」


 そんな苦し紛れの一撃などシナツには通用しない。


 簡単に雷撃を一閃し、弾いてしまう。


「く…そ。何て奴だ……!?」


 シナツの圧倒的戦闘力に目の前のエルフは震える。


 こんな奴をユグドラシルに行かせてしまえば、里は甚大な被害を負うだろう。


 いや、最悪アレを盗られてしまう……!


「そんなことはさせられない!うおおお!!」


「だぁっ!ったくいい加減に……」


 無謀にも隠し持っていたナイフで飛びかかるエルフにため息をついたその時だった。



「ぬおおおおおおおおおお!!!」



 ドカドカと森の奥から迫ってくる音が聞こえる。


「ったく、今度は何だよ!?」


 背後から迫る気配に苛つきながら刀を構えた。


 見ると、そこには2mはありそうな巨漢の男が柄の長い斧を持って迫ってくる。


 その斧は炎を纏い、そのあまりの熱にユラユラとあたりの空気が歪んでいた。


「巨漢のエルフ……珍しいな!」


 エルフは本来小柄で細身の者が多いイメージだが、目の前の男はエルフの特徴にどれも当てはまらない。


 もみあげから生えた髭は顎まで伸び、まるでドワーフのようだ。唯一長い耳だけが彼がエルフなのだろうと言うことを証明している。



「そいつから離れろぉ!【豪炎】に【強撃】のマナ!【金剛不壊(こんごうふえ)】!!」



 巨漢エルフはメラメラと激しい炎に包まれた斧をシナツに向けて振り下ろす。


 シュンッ


「ぬぅ!?」


 シナツは即座に一歩下がり、振り下ろされる強撃を回避。


 空を切った斧は地面に炸裂した。



 ドゴオオオン!!



「ふっざけんなよ!馬鹿力野郎め!?」


 巨漢のエルフの一撃は大きな爆炎をあげ、地面を大きく抉り、大きなクレーターを生み出す。


 その爆風はシナツの体を吹き飛ばすが、【浮遊】の魔法で飛行能力を得たシナツは空中で体勢を整えて地面に上手く着地する。


「ふはっはっはぁ!なかなかやるじゃんけぇ!!」


 巨漢エルフは豪快に笑いながらまた斧を構える。


「い、イーサン……!」


「おら!下がっとれ!!あの男は俺が相手するからのぉ!!お前さんは早く里に戻って助けを呼んでくるんじゃ!」


「は、はい!」


 若いエルフはそのまま森の奥に向かって駆け出す。


 なるほど。ここで俺を足止めしてその隙に増援を呼んで数で潰すつもりか。


 だが、その策は甘い!


「はっ。舐めんなよ。あのガキエルフが向かった方に里が……つまりは妖精樹【ユグドラシル】とやらがあるってことだな!?」


「ふっはっはぁ!!」


 シナツの指摘を受けた巨漢のエルフは……。



「そそそそそそそんなわけけなかろろらう?」



「嘘つけや」



 激しく動揺していた。


「ぐっ……ぬううう!!例えそれがバレたとて!俺がお前を通さなければ何の問題もない!そういうことじゃあ!」


「あ〜、はいはい。だったらとっととお前を倒してあいつを追いかけることにするぜ」


 エルフは頭脳明晰な一族のはずなのに……。この男イーサンはどうやら頭に行くはずだった栄養が全部筋肉にいってしまったらしい。


 これが俗に言う「脳筋」ってやつか。


「どぉりゃあ!!【乱撃】のマナ!【剛毅滅却(ごうきめっきゃく)】!!」


 イーサンは炎を纏った斧を振り回してシナツに突っ込んでくる。


「【十六夜(いざよい)】!」


 対するシナツは襲いかかる斧をいなすように弾き返していく。


 瞬速で剣を振る剣技。


 居合抜刀し、一瞬で16の斬撃を放つ技。


 それは斬撃はイーサンのマナの力を乗せた攻撃すらも弾き返していく。


「ぬ、ごお!?」


 イーサンはその光景をみて信じられないと言うような顔をした。


 当然だろう。明らかに力ではイーサンに武があるはずなのに、全ての攻撃がシナツに見事にいなされてしまっているのだから。


 シナツはただ剣を振っているわけじゃない。


 迫る斧の攻撃を見切り、それらが最大限威力を発揮する前に斧の柄を弾いて勢いを止める。


 逆にこちらは圧倒的速さで刀が最大限力を発揮できるタイミングで刀を当てる。


 こうすることで例え力に武がある相手でも(シナツにとっては)簡単に対抗することができるのだ。


「お…まえ……!?強いのぉ!?」


「当然だ、お前じゃ俺には勝てねぇ。だからとっとと俺を里まで連れて行きやがれ!ずっと言ってるが俺はお前らと敵対するつもりはねぇんだよ!」


「そう易々と里によそ者を入れられんわあ!断固拒否する!」


「てめぇも頭が硬ぇ口だな!だったら多少痛めつけられても文句言うんじゃねぇぞ!?」


 埒があかないと判断したシナツは更に刀を振る速度を上げる。


 ギギギギギギギギギギィン!!



「ぬ……ぬぅ!?」



 どんどん速度が上がるシナツの剣撃についていけなくなってきたイーサンは徐々に防戦一方になっていく。


 そうなってくると、当然イーサンには隙がうまれてくる。


 シナツはそれを見逃すほど甘くはない。



「おら!峰打ちにしてやるからこれで寝てろ!!【疾風】に、【斬撃】のマナ!【残月】!!」



 ドシン!


 隙だらけとなったイーサンの脇腹に向けて、シナツは峰打ちを放った。

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