シナツの過去3【追跡者】
「ったく…邪魔だな」
シナツの行手を阻むかのように広がる木々にシナツは毒づく。
それはまるで森自体に意思があり、シナツの侵入を拒んでいるかのようだった。
地上は草木に占領され、とてもじゃないが歩くことはできない。
そこでシナツはスルスルと木を登り、木々の枝を飛ぶように森の中を突き進んでいく。
後はこのまま【ユグドラシル】とやらにたどり着くだけな訳だが……。
「ま、そんな簡単にはいかねぇわな」
そう言ってチラリとシナツは森の中に目をやった。
どこからともなく視線を感じる。
森に入ってからずっとだ。
その視線は明確な敵意を持ちながら、こちらと一定の距離を保ちつつ追いかけてくる。
視線が訴えていた。
「これ以上、進むな」
と。
だが、シナツとしてもここで「はいそうですか」と帰るわけにはいかない。
依頼のために少なくともエルフと接触する必要がある。
そこでもし仮にエルフがシナツのことを拒否したのならばこの依頼はそこまでとスカーハに受け入れさせた。
人間嫌いのエルフ……いや、正確には人間を見下しているエルフが人間の護衛なんぞ受け入れるはずがない。
だから、この任務はエルフと接触すればそれで終わりになるはず。
正直、エルフの奴らがどうなろうが俺には関係ない。
俺は俺さえ良ければそれでいい。傭兵として最低限やることだけやって帰ろうとタカをくくっていた。
視線を置き去りにするようにシナツは加速し、追跡を振り切ろうとするが、相手もしつこい。なかなか相手を撒くことができない。
「さぁて……どうしたもんかな」
そんな状況を少し楽しみながらまた木を飛び越えたその時だった。
バチィッ
「……っとお!」
突如、木の影の向こうから何かが飛来する。
シナツは空中で身を翻しながらそれを回避。
見ると、それは矢の形をした雷。
視線の敵からの攻撃だった。
「エルフだな」
そして、ここまで正確な射撃と強力な一撃。
他の妖精の一族であればここまで高威力の攻撃はしてこない。
妖精の一族は基本的にサポートや回復のような魔法を得意としている。その妖精の中で唯一攻撃的な魔法を得意とするのがエルフ。
やはり後をつけてきていたのはエルフの見張りか何かだったのだろう。
ならば、接触を図ってみるか。
「おい、そこの奴。俺は敵じゃあねぇ!一応守人のスカーハ婆さんから依頼を受けてお前達の護衛に来た!取り敢えずてめぇらの長に会わせてくれ!」
シナツは両手を上げながら空中を飛び回り、一応意思疎通を図るために矢を放った張本人に向けて言葉を放つ。
ビュビュビュビュッ
「やっぱりかよ」
だが、そんなシナツの言葉は雷の矢で返された。
交渉決裂。
再び枝から枝へと飛び回りながらシナツは刀に手をやる。
「一応忠告だ。これ以上攻撃を仕掛けてくるんなら、こっちも反撃するぞ?取り敢えずでも話を聞く気があるんなら攻撃をやめて姿を見せな!」
「……っ」
やはりと言うか、再び放たれる雷の矢。
シナツは放たれた矢を刀で撃ち落としながらため息をつく。
全くめんどくせぇ。
「おら!【残月】!」
パァン!
シナツが刀を振ると、四方に空間の裂け目が生まれ雷矢を弾き返していく。
すると、動揺したように向こうの気配が移動するのが分かる。
「見えたぜ」
シナツの鋭い感覚が見えざる敵を確実に捉えた。
「【疾風】に【強撃】のマナ……」
気配がまた飛び、そして次の枝に止まる瞬間を狙う。
「【旋風】」
シナツが刀を振ると、真空の斬撃が放たれる。
それは凄まじい勢いで発射され気配が着地しようとした枝を先に切り落とす。
「ぐ、うおぁっ!?」
足場を失った相手はそのまま落下したのだろう。木々の茂みの向こうからそんな悲鳴と、バキバキと何かが落下する音が聞こえた。
「【疾風】に【飛行】のマナ。【浮遊】」
シナツの身体は風を纏い、シナツに飛行能力を付与する。
その能力を使ってシナツは落下する気配の元に向かって飛んだ。