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シナツの過去1【スカーハからの依頼】

 今から20年前の話。


 黒いマントを被った金髪の青年はこのイーリスト城下町を歩いていた。


「ったく。相変わらず人が多くて嫌になるぜ」


 そんな独り言を呟きながらシナツは頭をかく。


 基本的にシナツは人と関わることが嫌いだ。


 人は自分勝手な生き物で、すぐに自分の都合を押し付けてくる。


 【守人】の一族に生まれたというだけで、とある使命のために生きろと言われて生きてきた。


 だが、そんなもんクソッタレだ。


 俺は俺だ。自由に生きる。


 だから同じ境遇のあいつと一緒に傭兵として好き勝手やってきた。


 まるでこれまで押しつけられてきたことへの鬱憤を晴らすかのように暴れ回り、気がついたら周りの人間たちは俺達のことを最強の傭兵【疾風迅雷】と呼ぶようになっていた。


 俺達は自由だと。縛られるものなんて何もないことを証明することができたのだ。


 そうだというのに……。


「あの馬鹿野郎が」


 相棒は、突如傭兵をやめ【守人】の使命を守って生きると言った。


 ふざけんな。


 何で今を生きる俺たちが1000年前のしがらみに縛られて生きなきゃならねぇんだ?


 そんな昔のことなんざ、俺達には関係ねぇだろうに。


 そんな事を思いながらシナツはとある練金屋の暖簾をくぐった。


「ふん。ちゃんと来たかクソガキめ」


 暖簾の向こうには皺だらけのある老婆が座っている。


「ケッ。あいも変わらず貧相な顔してやがんな」


 睨みつけるように老婆を見ながらシナツは毒を吐く。


「わざわざ何の用だ?【守人】を辞めた俺をわざわざ呼び出しやがって……。俺をまた縛りつけようとすんならただじゃおかねぇぞ?」


「相変わらず口の汚ないガキだよ全く……。あんたを呼んだのは傭兵として依頼したいことがあるからさね」


 深いため息をつきながらスカーハは地図を取り出す。


「あんたに妖精樹【ユグドラシル】の護衛を頼みたいのさ」


「妖精樹……?何だってそんなことしなきゃならねぇ。どうせ守人絡みなんだろ?お断りだ」


 やはりそうかと、呆れたようにシナツは店を後にしようとする。


「あんた、傭兵やってんだろ?だったら引き受けるのが筋ってもんだろう。それとも何かね、無理だって言うのかい?全く、【疾風迅雷】なんて随分とまぁ担ぎあげられて……。恥ずかしくないのかね」


「あん?」


 すると、そんなシナツにスカーハがそんな事を告げた。


「何が悪いんだよ。何も悪いことなんざねぇだろ?」


 シナツはイライラした口調をスカーハにぶつける。


「力ばっかりつけて、中身が何もないって言ってんのさ。戦う意味も見つけられない青二才のくせに。見てられないってんだよ」


「また小言かよ。いいか?俺はあんたらみてぇに決められた人生を歩むのなんざごめんだ!1000年前からの古いしがらみなんざ俺には関係ねぇ!俺の人生は俺のもんだ!確かに育ててもらったことは感謝してるがな。それでも俺はあいつとは違う!あいつは守人として生きることを決めたみてぇだがな、俺は今の生き方を変えるつもりはねぇよ!」


 バァンとスカーハの机を叩きつけながらシナツは叫ぶ。


「……ったく。お前って奴はほんっっとうに聞き分けのないガキだね!」


 スカーハも負けじとシナツの胸ぐらを掴みながら叫ぶ。


 しわくちゃの婆さんのどこにこんな力があるのかとシナツは呆れそうになる。


「いいだろう。だったら見せてみな!この任務をちゃんと最後までやり遂げたなら認めてやろうじゃないか!」


「上等だ!クソババァ!受けてやらぁ、その任務をよぉ!【疾風迅雷】の名は伊達じゃねぇことみせてやる!」


 こうしてシナツはスカーハから妖精樹【ユグドラシル】の護衛任務を受けることになった。

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