邂逅
全身が重い。
身体がボロボロなのか、身体を動かすことすら億劫だった。
ただ、瞳を閉じて手足を投げ出して転がっている。
何があったんだっけ?
思い出せない。
今はこのまどろみに身を任せていたい。
そしてまた襲ってくる眠気を受け入れようとした、その時だった。
「おい。寝てんじゃねぇぞガキ」
そんな声がソウルの耳に聞こえ、ソウルの意識がはっきりと覚醒した。
ーーーーーーー
目を開くと、金髪のボサボサ頭の男が呆れたようにソウルの顔を覗き込んでいた。
「しな…つ?」
「ほぅ。寝ぼけてはいねぇみてぇだな」
そう言ってシナツはニヤリと笑う。
そんなお気楽そうなシナツとは対照的に、ソウルは焦燥に駆られてバッと身体を起こすと、辺りを見渡す。
そこは青い空と透き通るような青い海のようなものが広がる。
そしてソウルとシナツがいるのは黄金の円盤の上。
まさかと思った。でも、間違いなかった。
「おい…待てよ……!」
ソウルの意識が鮮明になるとともに、死神との戦いの記憶が蘇る。
死神との戦い。
突如現れたシナツ。
記憶はそこで途切れている。
何があったのかは分からない。確かなのはここに……ソウルの心の中にシナツがいるという事実。
「嘘…だろ……?」
何故?
「何で…何でシナツがここにいるんだよ……?」
答えは明白なはずなのに、ソウルはそんな事を口にしていた。
認めたくない。
認められないと思った。
そんなソウルの想いを無視していつものように頭をガシガシとかきながらシナツはため息をつく。
「相変わらず、鈍い奴だなお前は。初めてだがここはお前の心の中の世界だろ?だったら……」
「そういうことじゃねぇだろ!?」
そんなシナツへソウルは焦りにも似た怒りの声をぶつける。
「だって……シナツがここにいるってことは……それは……!!」
ここで出会ったのはガストとレグルス。
つまりここはソウルの召喚獣となった者がいる世界。
じゃあ、何故シナツはここにいるのか?
そんなもの、火を見るよりも明らかだった。
「ま、そうだわな。下手こいちまったわけだ」
「ふざけんな!?何でだよ!?」
気づけばソウルはシナツに掴みかかっていた。
「あんたに限って、何でそんな事になったんだ!?いつだって自由気ままで……何にも縛られず生きてきたじゃねぇか!!何で……何で!?」
シナツがここにいると言うことは、つまり。
シナツは命を落としたということ。
状況から見て、死神との戦いに敗れたのだろう。
だが、どうしてもソウルにはそれが信じられなかった。信じたくなかった。
あんなに強いシナツだぞ?
向かうところ敵なしと言っても過言ではないほどに、シナツの強さはソウルが1番知っていた。
しかも、引き際も弁えていて、ピンチになったらすぐに身を引いたり危険には自ら関わりになんていこうとしない。
面倒事なんて1番嫌い。縛られることなんかもってのほか。
それがこの6年で見てきたシナツの姿だった。
そんなシナツがどうして?
ソウルには到底信じられることではなかったのだ。
「まぁ……何から話そうか」
シナツは掴みかかってくるソウルの手を外すと、ガシガシと頭をかきながらその場にあぐらをかく。
「おい!俺は真面目に……!」
そんなシナツにまた苛立ちを募らせて怒鳴りかかろうとした、その時だった。
「悪かった」
「……え?」
シナツが両手をつき、そして頭を下げた。
ソウルは目の前で起こっていることが信じられない。
いつだって傍若無人。勝手気ままな彼が、謝る……?
そんなシナツの姿を見たのは初めてだった。
「……言ったろ。下手こいちまったんだよ」
そう言って顔を下げたままのシナツはバツが悪そうに言葉を続ける。
「昔、お前に話した3つの条件があったな?」
「あ、あぁ」
条件。
それはソウルがシナツから剣を教えてもらうための3つの条件。
召喚魔法を使わない事。
修行期間は6年である事。
そして、シナツの過去に触れない事。
その条件の理由なんて、一切教えてもらったことなどなかったのだが……。
「全て話そう。俺の過去と…何故俺がお前に剣を教えることにしたのか。そして……俺がお前に謝らねぇといけねぇことを」