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死神の狙い

「1つ、分からないことがあるんだ」


 力強い仲間の顔を見渡しながら、ジャンヌは1つの問題を提起した。



「何故、死神はソウルとレイ……さしてはその男を狙ったのか……ということだ」



 これまで、死神は【妖精樹の大火】に携わった騎士のみを殺害してきた。


 その過程で、他の騎士と戦闘することもあったがその誰もが命を奪われることはなかったのだ。


「そう言われてみりゃ……確かに謎だよな」


 デュノワールはそう言ってソウルとレイに目を向けた。


 ぐったりとした2人はまだまだ目を覚ます様子はない。


「……死んでもおかしくないぐらいの傷だった。無事で……本当によかった」


 そう言ってシーナはまた泣きそうになって声が上ずる。


 その男というのがどこの誰かは分からないが、確実に死神に命を奪われた。


 そして、レイとソウルに至ってはその場に駆けつけたシーナとオリビアが命を奪うほどの重傷であったことを確認している。


 オリビアの治療魔法を受けても目を覚さないような状態。


 これまでの死神とは明らかに違う行動。イレギュラーだった。


「じゃあ、ソウルとレイも死神のターゲットだったってことかよ」


「どちらかと言えば、レイではなくソウルが狙いだった可能性の方が高いように思えるな」


 ジャンヌは考えるようにアゴに手を乗せながら言葉を続ける。


「死神はエルフであると同時に、もう1つ特筆すべきことがあっただろう?」


「っ!そうですわ!死神は……」


「そう。死神は召喚魔法を使える……。シーナ、それは間違い無いんだな?」


「……うん。ソウルが使ってた召喚獣と同じ感じを受けたから多分間違いないと思う」


 この中でソウルの召喚獣を1番見てきたのはシーナだ。


 しかも感覚の鋭い【破壊者(ジャガーノート)】。その彼女が言うということはほぼ間違いないだろう。


「これまで【妖精樹の大火】関係の騎士を狙ってきた死神が初めてそれと違う相手に手を出した。そして死神と今分かっている唯一の共通点は【召喚魔法】だ」


 そう言ってジャンヌはハミエルに目を向ける。


「ハミエル。ジェイガン以降で死神にやられた騎士はいるか?」


「……えと。確かそれらしい事件は少なくても今のところでてきていません」


 ハミエルは少し言葉を選びながらジャンヌの問いに答えた。


「と言うことは……だ。今、死神の中で騎士を狙うことよりもソウルを狙うことの方が優先順位が高い可能性があるな」


「確かに……そうかもしれませんわ」


「だから我々が今やるべきことは、ソウルを守ることだ。奴は必ずソウルを狙う為にここにやってくる」


 そう言いながらジャンヌはギンとある人物に視線を向けた。


「そして、君だオリビア……と言ったな」


「……はい」


 ジャンヌに名前を呼ばれ、これまで黙り続けていたオリビアが小さな声を返す。



「君は、重要な何かを知っているんじゃないか?」



「……っ!」


 ジャンヌの指摘にオリビアの表情が明らかに揺れる。


「……え?」


「ま、待ってください!オリビアはただの町民ですわ!」


 ジャンヌの言葉を受け、聖剣騎士団のみんなの警戒が強まる中、シーナとアルは動揺したように声を上げた。


「考えてみてくれ、2人とも。何故彼女はソウルの窮地を察知しシーナを呼ぶことができたのか……。人気のない路地裏だったんだろう?」


「……っ」


 正直、それはシーナも違和感を感じていたことだった。


 何故、オリビアはソウルの危機に気付くことができたのだろう。


「……それは、言えません」


 ジャンヌの問いに対して、オリビア首を横に振った。


「言ってもらわなければ困る。何故君がソウルの危機に気づくことができたのか。そして君は何故死神がソウルを狙うのか、知っているんじゃないか?」


「……」


 オリビアは暗い表情のまま黙り込んでしまう。


「……っ」


 シーナとアルはそんなオリビアにかける言葉が見つからない。


 まさか……オリビアが事件の何か重要な手がかりを握っている?


 もっと言えば、もしかすると死神と繋がっているのではないか?


 様々な可能性が脳裏をよぎっては消えていく。


「ソウルを守る為だ。何でもいい。知っている情報を教えてくれないか?」


 しばらく沈黙が流れた後、ジャンヌは再びオリビアにそう声をかけた。


「……ごめんなさい。死神がどうしてソウルさんを狙うのかは、本当に分かりません」


 やがてオリビアは重い口を開き、言葉を紡ぐ。


「どうして私がソウルさんの危険を知ることができたのかは、お話しすることごできません。ごめんなさい。だけど……私はソウルさんを死なせたくない。私はソウルさんと……そしてシーナとアル、レイさんの味方です。どうか、どうか、それだけは信じてください」


 涙目になりながらも、オリビアは必死に思いの丈を伝えた。


「いやいや!だったらおかしな話だろ!?味方だって言うなら全部話せばいいじゃねぇか!」


 マリアンヌはカッとなったようにオリビアを問い詰める。


「お前の持ってる情報次第ではソウルの……さしては死神との戦いの命運を分けるかもしれねぇんだぞ!?本当に味方ならここで洗いざらい全部……」


「よせ、マリアンヌ」


 激昂するマリアンヌをジャンヌがいさめる。


「で、でも……」


「……皆も、思うところはあるだろう」


 ジャンヌの言葉に各々複雑な顔をした。


 何故なら、マリアンヌの主張は最もなのだ。


 本当に味方なのであれば、全て話してくれればいい。何故それができないのか?


 一体このオリビアという少女は何者なのか。


「今この段階ではっきりしていることがある」


 そんな皆の疑問があることを承知した上でジャンヌは告げる。



「事情はどうあれ、彼女は瀕死のソウルを救う為に行動した。それだけは揺るがぬ事実だ。本当にソウルや我々の敵ならば今ここにいることはないだろうし、何よりシーナを呼びにいく事もしないはず」



 そう言ってジャンヌはオリビアに歩み寄った。


「だから、私は君を信じてみようと思う」


「……っ!?」


 ジャンヌの言葉に皆驚きを隠せない。


 そんな得体の知れない相手を信じると言うのか!?


「我々は、ここから死神を討つために動き始める。だから、君はここでソウルとレイを守っていてくれないか?」


「ちょ!?正気ですか!?」


 マリアンヌはあんぐりと空いた口が塞がらないように告げる。


「おいおい。流石にそれは……思い切りが良すぎるんじゃねぇか?」


 あのデュノワールですら苦笑いしながらジャンヌに問いかけた。


「あぁ、私だってこれでいいのか不安もある。だがな」


 ジャンヌはしっかりとした瞳で2人を見つめ返す。



「彼女は行動し、ソウルを救った。そして、疑われることも覚悟してここに残った。信用するに充分足るだろう。私は、信じるべき時に信じる。そういう聖女でありたい」



「……っ」


 ジャンヌの言葉にオリビアの瞳からポロリと涙が溢れる。


「……ごめんなさい。何も言えなくて。でも必ず、必ずソウルさんを守り抜いてみせます!だから……!」


「……うん、オリビア。私もオリビアのこと信じてる」


「はい。今は話せなくても、いつか話してくださいですわ」


 そんなオリビアを見てシーナとアルはそっとオリビアに寄り添う。


「……あーもう。仕方ねぇなあ。どうなっても知んないからなー?」


「ははっ。全く、俺達はぶっ飛んだ聖女様の元についちまったみてぇだな」


 少し呆れつつも、どこか穏やかな表情でマリアンヌとデュノワールも頷く。


「はい。それじゃあ決まりですね」


 それを見たケイラもニコニコと笑いながらハミエルの顔を見る。ハミエルも黙ったままそっと微笑んだ。


 そんなみんなにジャンヌは少し肩の力が抜ける。


 新たな聖剣騎士団の一歩を、今確かに踏み出せたような、そんな気がした。

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