乱入者
何かくる。
死神はそう直感した。
だが、例え何人たりともこの私を止めることは叶わない。
相手が何だろうとも構いはしない、と。
その迫る何かが到達する前に、目の前に転がるこの男の首を絶とうとした。
しかし、それは死神の予想する速度を遥かに凌駕して瞬きの間に彼女の前に降臨し、その黄金の刃を受け止める。
ギィィィン……
目の前に現れたその男の存在に死神は戦慄した。
「ま…さか……!?」
同時に巻き起こる旋風。
男の連れてきた暴風が死神のフードを吹き飛ばす。
フードの闇の向こうから現れたのは金の髪と雪のように白く美しい肌。
そして何より特徴的なのは人のそれとは違う長く伸びた耳。
「へっ。やっぱりお前だったなシェリー」
男が握るのは一本の刀。
互いの刃で鍔迫り合いとなりながら、互いの顔を確認しあう。
同時に死神の心の奥底から沸々と怒りが込み上げてくる。
「何故……何故今更お前がここに来たんだ!!」
そして、その感情をそのままに死神は言葉をぶつけた。
死を覚悟したソウルが目を開く。
「ん…な……!?」
言葉にならない驚きの声を上げる。
何で……何であんたがここにいるんだ!?
「何とでも言え。ここで全てを終わらせるぞ、シェリー」
そこにはソウルの剣の師匠、シナツの姿があった。
ーーーーーーー
まさか、今まさに襲われているのがソウルだったとは。全く、運命の悪戯とは恐ろしいものだと、シナツはため息をつく。
ギィン!
死神は刀を振り抜くとそのまま下がって距離をとった。
「……ぐ…ぁ」
ソウルは死にかけの芋虫のように身体を捩って目の前のシナツに声をかけようとする。
しかし、絞り出すような空気は声にならずにヒューヒューと小刻みな風音を出すだけだった。
「久しぶりだな、ソウル」
シナツはチラリとソウルを見てそう告げる。
「随分とまぁ無様な姿になってんじゃねぇか。これじゃあ剣を教えた俺の名前にキズがつくってもんだぜ」
おい。あんた死にかけの弟子にそんなことしか言えねぇのか。
と、元気なソウルなら突っ込んでいるところだが、今のソウルにそんな余裕なんてない。
ただただ荒い呼吸を返すことしかできなかった。
「……あいつは俺がケリをつける。だからソウル、お前はそこの嬢ちゃん達に連れてってもらえ」
そう言ってシナツはソウルの後方へと目を向ける。
「ソウルさん!」
「……ソウル!?」
意識が薄れていくソウルの耳に、2つの少女の声が響く。
だが、腑に落ちない。
傷のせいもあるが、謎が謎を呼んでソウルの頭は真っ白だ。
何で、シナツがここにいる?そしてまるで知り合いかのように言葉を交わしているんだ?
そして、何でシーナとオリビアがここに……?
「あの嬢ちゃんがいるならお前も大丈夫だろ。色々聞きてぇことはあると思うがな。全部終わったら話してやる。だから今は大人しくぶっ倒れてな」
そんなソウルの心を察してか、シナツはそう告げると死神の方へと向き直る。
その言葉を最後にソウルは意識を失った。