海神VS雷獣
瞬速の召喚獣。
速さでは到底敵わない。ましてやその技量ですらも。
圧倒的力の差。そんなものは火を見るよりも明らかだった。
だから、ソウルができる足掻きはただ1つ。
「【トライデント・レイ】!」
ポセイディアは自身のトライデントを9つの光球に変化させる。
それらは凄まじい速さで路地裏を飛び回り、あらゆる方向から死神を狙う。
「速いな」
「嘘つけ!」
緑の瞳が展開する光球を確実に捉えている。
ここで攻撃を放っても恐らく回避ないしは防御されるだろう。
しかし、それでもソウルは攻撃を放つ。
「撃てっ!」
バシュシュシュッ!
9本の閃光が同時に死神に襲いかかる。
「【分散】のマナ!【羽団扇楓】!」
死神が詠唱すると、雷鳥の羽毛が四方に散り、雷鳥が眩く発光し始めた。
バリバリバリッ!!
そして次の瞬間、中心の雷鳥が稲妻を放つ。それは四散した羽毛それぞれに通電し、まるで稲妻の結界…もしくはまるで1本の楓の木の様なものを作り出した。
バチチチチッ!!
ポセイディアが放った閃光は雷の結界に阻まれ無効化される。
「厄介な魔法だな……!」
だが、あれを展開しているうちはこちらに攻撃もできないだろう。
「【海神】のマナ!!【深き蒼の癒し(ディープ・ブルー)】!!」
ポセイディアから蒼い光が放たれ、レイとソウルの身体を包み込む。
ソウルの左肩の傷が塞がりレイの出血が止まる。
しかし、レイは意識を失ったままピクリとも動かない。
ガストの力は傷を塞ぐことはできるものの、失った血までは戻すことができない。だから傷を塞いでもダメージは大きく残ったままなのだろう。
「くっ……」
待ってろレイ。すぐにあいつを何とかして病院に……。
「そんな隙があるとでも言うのか?」
「ピィィィィィィ!」
雷の結界の向こうから雷光と共にサンダーバードが飛び出してくる。
だが、それはソウルの予測通り。
「やりようはあるさ!【絆】のマナ!【リンク・ゼロ】!」
ソウルの切り札。
ポセイディアがソウルの指揮下から外れ、自身の意思で動き出す。
「はぁっ!」
バチィィン!
超速で飛び回るサンダーバードにポセイディアはトライデントを振り回して対抗。
ポセイディアの三叉槍と雷鳥の嘴がぶつかり、路地に閃光が走る。
だが、やはり速さは敵の方が上。次第にポセイディアは防御が間に合わなくなり攻撃が身体を掠め始める。
「すまん、ガスト!少しだけ持ち堪えてくれ……!」
苦しそうなポセイディアを残し、ソウルは死神に向けて駆け出す。
「……っ」
召喚魔法の弱点。
それは発動中は術者が無防備になるということ。
死神がいかに格上でもその事実は変わらない。
今のソウルには【リンク・ゼロ】がある。召喚術の弱点をカバーする能力。奴がそれを扱えるかどうかは分からないが、それができない可能性に賭ける!
「喰らえ!【陥落】!!」
ソウル最強の一撃。
半端な防御など物ともしない威力の剣撃。
必ず死神か召喚獣に隙が生まれるはずだ!!これを防がれても、ガストならその隙にサンダーバードを倒してくれるはず。
そうなればフィードバックで死神にもダメージが返ってくる。その隙に【劣化・風迅】で攻撃できる。
これは予測できなかっただろ!?死神!!
ソウルはそのまま黒剣を振り下ろした。
「……残念だが、そう上手くはいかないさ」
フードの闇の向こうで死神が笑う。
そして、死神はマナを溜めた。
「【地獣】を【武装召喚】。【リュカイオン】!」