死神との戦い【雷獣:サンダーバード】
魔法陣の中心からズズズ……と巨大な鷹が姿を現す。
体長はおよそ60センチ。翼を広げればその3倍以上にはなるだろうか。
その身は雷に包まれ……いや、もはや身体そのものが稲妻の様でパチパチと小さな火花が散る。
羽の一枚一枚に至るまでが閃光を放つそれは、魔法陣から飛び上がり、翼を広げた。
「ピィィィィィィィィ!!!」
路地に響く雷鳥の産声。
耳をつんざく様なその声にソウルはたまらず耳を塞ぐ。
マナで作られた魔法なんかじゃない。あれには明確な意思があることを感じる。
間違いない。それも、他の誰でもないソウルが間違えるはずがない。
あれは……あの魔法は……!
「召喚……魔法?」
「飛べ!【加速】のマナ、【電光石火】!!」
死神のマナを受けた雷鳥はバチチと発光したかと思うと、そのまま一筋の光となってポセイディアへと突進してくる。
「っ!?ポセイディア、撃ち落とせ!!」
一瞬呆けていたソウルは、ハッと意識を切り替えてポセイディアに迎撃の態勢を取らせる。
そして、一直線に走る雷鳥を叩き落とすようにトライデントを振った。
「甘い」
パチィン!!
「なっ!?」
しかし、トライデントがぶつかる直前で、突如雷鳥が軌道を直角に変える。
そのままカクカクとポセイディアの周りを旋回し、そしてポセイディアの背後をとった。
ズドォンッ
「ううっ!?」
「ぐっがぁぁあ!?」
辺りに落雷のような轟音が響くと同時にポセイディアの背中を雷鳥が撃ち抜く。
そして、ソウルの胸に痺れる様なフィードバックが走り、ポセイディアとソウルは地に伏した。
バリリリリッ
攻撃を終えた雷鳥は死神が差し出した腕へと止まり、悠然とこちらを見下ろしている。
何だ……?まるで、本物の稲妻の様な動きで予測ができなかった。
痺れる身体に何とか力を込めながら、ソウルは死神とその僕を睨む。
「召喚術士の戦いで先に召喚魔法を展開するなど愚策です」
「く……」
召喚術士は複数の属性の魔法を扱うことができる。ソウルであれば水のポセイディアと火のバステオス。
さっき感じた5つの気配。あれはきっと召喚獣となった人間の意志。
つまり、死神は5つの召喚獣を扱うことができるということだ。
同時にそれだけ複数の攻撃手段を持つということになる。そして、それだけ属性の数も増えるだろう。
対するソウルの召喚獣は2つ。
手数の差でそれだけでも圧倒的に不利だというのに、それに加えて先程の剣術や召喚術の技量。
全てにおいて、ソウルは死神に負けているのだ。
「だからって……」
それでもソウルはギリリと歯を食いしばる。
「だからって、こんな所で負けられるか!」
圧倒的に不利。勝ち目なんて正直あったものじゃないが、ソウルだって後に引けない。
ここで負ければレイが死ぬ。ここを逃げればレイが殺される。
だから、死んでも負けられないし、逃げるわけにもいかない。大切な友を、仲間を死なせるわけにはいかないのだ。
「レイは死なせない!そして、もうこれ以上誰も死なせるわけにはいかない!ここでお前を倒してみせる!!」
ソウルはそう咆哮しながらポセイディアに戦闘態勢を取らせる。
そんな決死の覚悟で挑んでくるソウルを見て、死神は。
「……羨ましいよ。貴様はそんなに綺麗な思いで戦うことができて」
どこか悲しそうな顔で呟いた。




