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間章

「そんな…お母様……みんな……!」


 真っ黒に焼き落ちた故郷を見て、少女は脱力して膝をつく。


 妖精樹【ユグドラシル】。


 天まで届きそうだったその大樹もその片鱗を残すのみで、真っ黒に焼き落ちていた。


 辺り一面にはただ墨と灰になった木々の残骸が残るのみで焦げ付く匂いが鼻を離れない。


 母も祖母も。大長老も先生も……何もかもが消えてなくなった。


 残されたのは、想いだけ。


 彼女の帰りを待っていたのは5つの魂。


 隣の父が何かを言う。しかし、そんなもの頭に入って来ない。私の頭にあるのは悲しみと、悔しさと、そして怒り。


 我が身を焼き尽くさんとするほどの激情とともに、6つの魂は私を駆り立てる。


 殺すんだ……私の故郷を滅ぼした騎士どもを。


 滅ぼしてしまえ……エルフの民を踏みにじる人間どもを!


ーーーーーーー


「っ!」


 薄暗い厩舎の中で少女は弾かれたように目を覚ます。


「はぁ…はぁ…っ。ふぅ……」


 そうか……あの時の夢か……。


 随分とうなされたのだろう。全身はベトベトの嫌な脂汗で気分が悪い。


 どこか森へ水浴びに行きたいと思いながらまたゴロリと藁へと身を預ける。


「ブルル……」


 すると、厩舎の住民が心配そうに彼女の顔を覗き込んできた。


「……大丈夫。あなたは優しい子だね」


 馬の顔を撫でながら少女は自然と笑みが溢れる。


 勝手にお邪魔させてもらったというのに、こうして心配までしてくれるなんて、人間と違って動物は本当に心優しい生き物だ。


「さて……そろそろ行かないといけない」


 そろそろ家主も起きてくる時間だろう。誰かに見られる前にまた移動しなくては……。


「……」


 そう思い立ち上がった彼女の心に1つの闇が落ちる。


 先日の聖剣騎士団副団長ジェイガンとの戦い。


 それが彼女の心に迷いを与えていた。


「何故……」


 何故、私は迷っている?


 決めただろう、あの森を焼き払った騎士達を皆殺しにすると。


 今更何を?何人も何十人も殺して来た。もう戻れるわけもない。私に残された道は進むことだけ……。



「死神ともあろう者が随分と揺らいでいるじゃないか」



「っ!?」


 突如として、厩舎の闇の向こうから凍りつくような声が響く。


「ブルル……っ」


 闇の向こうの存在に、馬も警戒を強める。きっと動物の本能的にも目の前の奴が脅威だということが分かるのだろう。


「……そこにいるのは誰だ?」


 追っ手の騎士か?いや、ならばこの禍々しいオーラはなんだ?


 ピリリと張り詰める空気と緊張感。


 死神は黄金の太刀を抜きながら身体中にマナを巡らせる。


「待て。少なくとも今お前と敵対する意志はない」


 すると、闇の中から現れたのは闇より深い黒の鎧の男。


 噂で聞いたことがある。裏の世界で暗躍する黒い鎧の男。通称【黒騎士】。


 その実力はこの国の聖女ジャンヌをも凌ぐという。


 だが、その目的も素性も誰にも分からず存在自体が謎に包まれている男だ。


 そんなこの男が一体私に何の用があるというのだ。


「交渉に来たんだ。死神」


 黒騎士は手を上げて降参の体勢を取りながらこちらに歩み寄ってくる。


 確かに敵意はない。


 しかし、こちらが攻撃を仕掛けようものならすぐにでも迎撃できるのだろう。


 一見隙だらけのように見えるその姿には隙がない。


「……交渉?」


 警戒しつつも死神は黒騎士の言葉に耳を傾ける。


「あぁ。お前の目的は分かっている。お前の故郷、【妖精樹の大火】の生き残り……。そしてその関係者への復讐だろう?」


「……っ」


 なぜそれを知っている?


 そんな疑問が死神の頭をよぎる。


「そして、今お前は迷っている。ジェイガンとの戦いを経て、あの事件に参加していた者をただ皆殺しにしてもいいのか、ということにな」


 何だこの男は?何故私の心を知っている?こいつは一体何者だ?


 死神は心を見透かされたような感覚に陥り動揺のまま後ずさる。



「だからこその提案だ。あの作戦を立案した男……レイオスの行方を教えてやる」



「何!?」


 黒騎士から告げられたレイオスという男。


 かつての神聖騎士団団長アレックスと対を成す存在レイオス。


 王からの信頼が厚かったが、その実は手段を選ばぬ残虐非道な男だった。


 言うなれば、レイオスは故郷を滅ぼした張本人。


 しかし、とある事件をきっかけに奴は行方をくらましてしまい消息を絶ってしまった。


 当然、奴の居場所が分かるのであれば真っ先に殺しに行ってしまいたい。


「そのレイオスさえ殺してしまえばお前の復讐は終わる……悪い話ではなかろう?」


「……」


 確かに、黒騎士の言うことはもっともである。


 しかし……何故そんな提案をする?


 奴の目的は一体なんだ?


「……その交渉とやらは何です?」


 黒騎士の真意をはかりかねながら、死神は質問を投げかける。


「何、1人お前に殺してもらいたい人間がいるんだ」


「ほざけ。私は殺し屋ではない。私が人を殺すのは私の復讐為だけだ……そんなことするはずが」



「その男はお前と同じ、召喚士だとしたら?」



「……何だと?」


 黒騎士の言葉に死神の肩がフルフルと震える。


「1000年前から定められた運命。そんなものに振り回された結果、一族は死に絶えお前は復讐者となった。ならば運命を狂わせた召喚士の1人はお前にとって全く復讐に関係ないといえるか?」


「……」


 1000年前の魔法大戦。


 その宿命に従った結果、私達は……。


「……いいでしょう。詳しく聞かせなさい」


 死神は刃を下げ、黒騎士の言葉に耳を傾けた。

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