事件
2日目には、何処かに行っていたシーナが戻って全員で遺跡に潜ることになる。
シーナは初日から任務から外れたことでカスパルからかなりお説教をされたのかしょんぼりしながらついて来ていた。
しかし、人数が増えたからと言って何かが変わるわけでもなく、エレナの作業を横で眺めるだけだ。
その間、シーナは一言も話をしなかった。
ソウルは何度か声をかけたものの、徹底して無言を貫き続け、そうこうしているうちに任務も4日目の夜となっていた。
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「あの小娘はどうなっている?」ヨーゼフはマイケルに尋ねる。
「そ、それが...なかなか上手く妨害作戦が.......」
マイケルは冷や汗をかく。
「.......君には失望したよ」
「し、しかし【ジャガーノート】に加えてあのレイとかいう奴もなかなかに曲者でして」
なぜだ、どうしてこうなったんだ。
本来であれば学者の後をついて回るだけの楽な任務だった。それもヨーゼフという重鎮の護衛であれば出世にも繋がるかもしれないビッグチャンスだ。
しかし、蓋を開けてみればヨーゼフから10歳の少女の邪魔をしろ、という妨害工作を強制される日々。
しかも相手は並大抵の相手ではないし下手をすれば自身が返り討ちに合うだろう。なんて損な役回りなのだ。
「ならばコレを使え」
そう言うとヨーゼフはマイケルに薬の小瓶を渡す。
「こ、これは?」
マイケルは瓶の中を覗きながら尋ねる。
「それはスロート蛇の毒だ。即効性の毒で相手の動きと同時に声を奪うものだ」
「ど、毒ですか!?」
マイケルはさすがに動揺する。
「安心したまえ。別に命を奪うような代物ではないよ。君もあのチームの者たちには色々思うところがあるだろう?」
「...そ、それは」
確かに、【ジャガーノート】の化け物に睨まれたり剣を突きつけられたり.......マイケルもあいつらのことは気に入らないと感じている。
「だったら、これで一泡吹かせてやろうじゃないか。私に計画がある。どうだ?やってみないか?」
ヨーゼフは悪魔のように笑う。
「.......はは」
マイケルはそれに惹かれるようにヨーゼフの計画に耳を傾けた。
ーーーーーーー
「おい、シーナ!」
痺れを切らしたソウルはシーナを追いかけた。しかしそれでもシーナは振り返りもせずに立ち去ろうとする。
何なんだほんとに、何も言わないと分からないだろ!とソウルは憤慨する。
「おい、待てって!」
その時ソウルを邪魔するものが現れた。
「よぉ、ソウルくん」
マイケルだった。
「今お前に構ってる暇はねぇんだよ!そこどけ!」
ソウルはマイケルを無視してシーナを追おうとする。しかしマイケルはソウルの肩を捕まえてくる。
「何だよ。分かってんだぜ、こっちはよ」
マイケルは下卑た笑みを晒す。
「あれだろ?お前.......【ジャガーノート】を利用して成り上がるつもりなんだろ?」
「そんなつもり、毛頭ねぇよ」
ソウルはマイケルを睨みつける。
「まぁ、待てよ。いい話を持ってきたんだ」
マイケルはソウルの肩を組み大きな声で告げた。
「あいつを上手く扱えるようにしつけとけ。それができたらおめえをうちの出世コースに入れてやる」
「は?」
「【ジャガーノート】.......今ではほとんど絶滅した戦闘一族だぞ?その力を利用出来れば簡単に成り上がれる。馬鹿でも分かる」
つまり、シーナを出世のための道具にしろと、そう言っているのだ。そんなこと、させられるわけないだろう、どこまで性根が腐ってるんだ!?
ソウルがカチンと来て言い返そうとした時だった。首筋に何かが刺さるような痛みが走る。
「.......っ!?」
ソウルは喉がしびれるような感覚に襲われた。
「おー!そうかそうか、受け入れてくれるか!話が分かるじゃないか!」
マイケルはゲラゲラと笑う。
「じゃあ.......後は任せたぞ」
そう言い残してマイケルは立ち去った。
「.......っ!っ!」
ソウルは言い返そうと声をあげようとするが声が出ない。何だ!?何をされたんだ!?
「.......そう」
その時だった。背後からシーナの声が浴びせられた。
ソウルは背中から氷水をかけられたような感覚に襲われる。
「.......っ!」
違うんだ!ソウルはシーナに必死に言葉をかけようとするが、声にならない。
「.......別に、分かってたよ」
シーナは目を伏せたまま告げる。
「.......私に近づいてくる人間なんて.......みんなそうだから」
氷のような目を向けながらシーナは立ち去ろうとする。
「.......っ!~!!!」
ソウルはシーナを追いかけようとするが、痺れが足にも広がってきた。どうやらマイケルに刺されたのは神経系の毒らしい。どんどん身体の自由が奪われる。
「.......さよなら、ソウル」
振り返らずにシーナは立ち去っていく。
ソウルは必死にその背中を追いかけようとするが、もう身体を動かすことはできずその場に倒れ込んだ。




