資料室へ
明くる日。
ソウルとアル、そしてマコは城の資料室へと向かっていた。
「もう、私だけでもよかったですのに……」
「アル様。ソウル様は整理が致命的なほどダメダメですのでマコがついていないと大変なことになりますから」
「それは……確かにそうですけれど」
「何で言われようなんだ……」
そんな2人にソウルは苦笑いするしかない。
いや、まぁマコの言うことは事実だし、アルも再起の街の作業所の惨状を見て「うわぁ……」と空いた口が塞がらない様子だったから仕方ないのだが……。
(「それに、ソウル様と密室で2人きりなんて……例え神様が許してもマコが許しません。その大きなお胸で誘惑なんてされればソウル様なんてコロッとやられてしまいますでしょうし」)
(「ばっ!?そんなハレンチなことしませんわよ!?」)
(「分かりませんよ?それに暗い資料室で2人きり……例えアル様にその気がなくてもソウル様が劣情に駆られてあんな事やこんな事を……」)
(「あ、あわわわわ!?」)
ん?何だ、2人でコソコソと……。
「おい、何の話……」
「サイテーですわぁ!!」
「うぼぁ!?」
話に入り込もうとしたソウルのアゴにアルの拳が突き刺さる。
何だ!俺が何したってんだ!?
「まままマコ。ぜひ一緒に資料室に来てくださいですわ。やっぱり男はケダモノなんですもの!」
「はいアル様。お任せくださいませ」
見事なアッパーカットを決めたアルは顔を真っ赤にしながらマコに告げた。
ーーーーーーー
「何で見せてくれないんだ!?」
資料室にたどり着いたソウルは役員のような男に怒鳴っていた。
「新米騎士の貴様達にここを使う権利などない!さっさと諦めて立ち去るがいい!」
偉そうなこの男はソウル達を侮蔑するかのように叫ぶ。
資料室に着いたのはいいものの、この男がソウル達の資料室への入室を許可しないのだ。
「貴様らがここを使うなんぞ許さん。資料室に足を運ぶ前にせいぜいその足で情報をかき集めてくるんだな!」
「そんな決まりなんてないだろ!?」
「決まりが無いからなんだと言う!?」
「んなもん、ただの横暴じゃねぇか!」
そんな2人のやり取りを見ていたマコはソウルにコソッと耳打ちした。
「ソウル様。恐らく妬みから来る嫌がらせです。取り合うだけ無駄かと……」
「くそ……」
『聖剣騎士団の配下騎士……それは君が思う以上に大きな出来事だからね。知らないところで有名になっているんだよ?君達新米騎士43班は』
ハイドの言葉が脳裏をよぎる。
元々ソウル達はかねてから悪目立ちしてきたという背景もあって肩身が狭い想いをしていた。
新米騎士の中だけで広がっていたそう言う認識も、聖剣騎士団の配下騎士になったことで他の騎士達にも伝染していたと言うことか。
まさか、こんな所でそのしわ寄せが来るだなんて……。どうして他の騎士にはロクな奴がいないんだと頭が痛くなる。
「さぁ、早く帰れ帰れ!お前ら聖剣騎士団のスネを齧っているような貴様らと違って我々は忙しいのだ!」
そう言って虫を払うように男はソウル達を締め出そうとする。
「くそ……!いい加減に……」
「あれ?ソウルさん?」
我慢の限界を迎えそうなソウルの耳に、1つの声が響いた。
振り返ると、そこにはトレードマークの白いバンダナ。城で働く者の制服に身を包んだオリビアが目を丸くしながら立っている。
「オリビア!」
「こ、これは……オリビアさん!!」
すると、男はビンと背筋を伸ばしてオリビアに頭を下げる。
「え…と……一体どうしたんですか?こんな所で大声でケンカなんて」
そう言ってオリビアはチラリとソウルと男の顔を見比べた。
「そ……それは……」
男は顔を青くしながら言い淀む。ソウルはカッカとする気持ちをぶつけるようにオリビアに一部始終を説明した。
「……資料室には騎士であれば誰でも閲覧できる権利があるはずですよね?」
「え、えーと……」
オリビアは男に鋭い視線を向ける。
「では、何故ソウルさん達の資料室利用を拒否したんですか?」
「……っ」
男はダラダラと冷や汗を流しながら黙り込むことしかできない。
「……この件は上層部に報告させていただきます。よろしいですね?」
「……はい。申し訳ございません」
確信を得たオリビアはそう言って男に確認する。当然男はしぶしぶ頭を下げて引き下がった。
そんなオリビアの姿にソウル達はポカンと口を開けることしかできない。
「オリビア……お前一体何者なんだ?」
そう言えば、城で働いていたことは知っていたがどう言う仕事をしているのかとかは聞いたことがなかったっけ?
「いやいや、そんな立派なものじゃないですよ。ちょっとした役職についているだけですから」
そう言ってにこやかに笑うオリビアに少し戦慄しながらも、ソウル達は無事に資料室の中へと入ることに成功するのだった。




