再起
魔法が使えないと宣告されたソウルは自身の目標を見失い、途方に暮れる。
そんなソウルにシルヴァは.......。
ウィル、ライ、ガストは各々の属性の基礎講座を受けに魔導学校の方へ移動した。
魔力がないと言われたソウルはどうしようも無いのでシルヴァと共に広場へ戻り、こうしてボーッと座っているという訳だ。
どれくらいたったのだろう。あの装置から降りたあとの記憶が曖昧だ。
そのまま色々あってここに来たような気がするがそれもよく覚えていない。
胸に大きな穴が空いたようだった。1人、別の世界に取り残されたような、そんな感覚。
「あの時...3人はどう思ったんだろうな」
ソウルはボーッと考える。
他の3人はどんな顔をしていたんだろう。合わせる顔がない。
装置から降りた後、誰も何も言わなかった。ソウルも3人の顔を見ることが出来なかった。
惨めで、悲しくて、くやしくて、寂しかった。それでもまだ現実味がないのか涙も何も出てこない。
だって、もうソウルが夢見た未来を実現することは叶わない。魔法が使えなければ騎士になんてなれるわけがない。
ソウルの夢も、仲間も、未来も。全てが失われたのだ。
「あ〜あ~……」
すると、シルヴァが何やら腑抜けた声を上げる。
「魔法、使えなかったか。ま、しゃーねーわな」
「……なんだよ」
シルヴァの無神経な言葉に耐え切れずにソウルは叫んだ。
「なんだよ!魔法が使えねぇおれへの当て付けか!?」
ぐちゃぐちゃの感情で沸騰する顔を上げてシルヴァを睨む。
「悪かったな!魔法が使えない約立たずで!さぞかし残念だろうな!孤児院で稼ぎの出せないクズが出来て!」
「おーおー、随分荒んでんなぁ」
「ふざけんな!俺の気も知らねえで!!」
怒りを隠しもせずにソウルは叫ぶ。
「もう…もう、俺には何もできない!騎士になることもできない!魔法が使えなきゃ俺は何も……」
「誰が決めた?」
シルヴァが真剣な顔でこちらを見つめる。初めて見せるその表情にソウルは固まってしまった。
「魔法が使えなけりゃ、何もできない?騎士になれない?誰がんなこと決めたんだ」
「だ、誰がって……そんなの、決まってるだろ」
騎士はこの国で魔法と武力をもって国を守る職。魔法が使えない奴がそんな騎士になれるはずが……。
「それはお前が諦めちまってるだけだろうが」
「……っ」
シルヴァの言葉にソウルは反論できない。
別に、魔法が使えなきゃ騎士になれないなんてことは決まってない。ただ無理だと思うだけ。
「今、おめぇは絶望してんだろう。それは分かるさ。でもな、そんなことでお前の夢は終わっちまうのか?」
シルヴァは続ける。
「騎士になるんだって、朝っから晩まで宣言してたろうが。立派な騎士になって、みんなを守るんだって……忘れたか?」
分かってるよ。大切なみんなを守っていきてぇよ、でも!!
「守ってなんかいけねぇよ!だって魔法が使え無いんだぞ!?そんなんでどうやって守るってんだよ!?」
「諦められるんだったら諦めな。それでも、諦めきれねえ思いがあるのなら、しがみついてみせろ!」
シルヴァは声を強くする。
「死に物狂いであがいてみせろ。不可能を可能にして見せろ!こんなところでお前は終わるような奴か!?やれることを全部やってから諦めやがれ!」
大した財力があった訳ではない。それでも並々ならぬ努力と苦労を越えて、シルヴァは孤児院を運営している。
この言葉にはシルヴァが生きてきた人生を物語るような重みがあった。
「立て!魔法が使えなかろうが、人は前に進める!お前にだってできるだろ!?」
そう言うとシルヴァはソウルの胸ぐらを掴み持ち上げて、真っ直ぐにソウルを見た。
「おめえには、やりてえことが...なりてぇもんがあるだろう!?それは魔法が使えないってことだけで折れちまうような、そんなやわなもんだったのか!?」
違う。そんなやわな想いじゃない。
心に描くのはみんなを守り抜く力強い騎士の背中。見ているだけで安心できるような大きな背中。
「魔法が……使えねぇんだよ」
ソウルは消え入りそうな声で呟く。
「あぁ」
「それでも...おれは...」
目頭が熱い。シルヴァはそんなソウルの目をしっかりと見つめてくる。それに導かれるように思いが溢れ出す。
心に描く憧憬を。
かつてウィルと読んで憧れた物語の騎士。
身寄りのない子ども達をたった1人で守り抜いてみせるかっこいい背中。
なりたい自分。ソウルが生きていくための道しるべ。
「おれは.......みんなを.......この国を守ってやれる.......そんな騎士に.......なりたいんだ」
ソウルの視界が涙で滲んでいき、魔法が使えないことで見失いかけていたソウルの夢が明白になっていく。
なあ、おれはなれるんだろうか。魔法が使えない。
自分ですら諦めてしまいそうな果てない夢。
「なってやれ!魔法が使えないのが何だ!?」
シルヴァは告げた。ソウルの背を押すように。ソウルがまた立ち上がって行けるように、シルヴァは叫んだ。
「おまえなら、みんなを守ってやれる騎士になれる!」
そう、まさにこの瞬間だったとソウルは記憶している。
確かにソウルの中で物語が始まった。
自らの手で終わろうとしていた、プロローグすら語られぬ騎士道物語は、こうして幕を明けたのだ。