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ハイド

 イーリスト騎士団の中には事件が起こった際に残された証拠品や現場の状況を調査する【現場調査団】という部署がある。


 普段は正式な報告書があがって来るのを待つのだが、今回の件については待ってなんかいられなかったので、ソウルとアルは直接調査団の部屋へと足を運んだ。


「失礼します……」


 調査団の部屋は石造の古びた建物の中にあり、ソウルとアルは薄暗い廊下をカツカツとあるく。


 やがて、古びた扉に手をかけるとギギィ…と錆び付いた蝶番(ちょうつがい)が悲鳴をあげながらソウル達を部屋の中へと案内する。


「いらっしゃい」


 中から現れたのは目には深いクマがくっきりと刻まれた痩せこけた男だった。


 季節外れのボロボロのコートにホコリで汚れた眼鏡でこちらを見上げる。


「し、失礼します……」


 カビ臭い部屋の中に眉をしかめながらソウルのアルは男に頭を下げる。


「初めまして……だね。僕はハイド。【現場調査団】でジェイガン様の事件を扱っているよ」


 そう言ってハイドは痒そうに耳の後ろをかく。その度に白く細かいフケがパラパラと宙に舞い、アルは嫌そうに顔を歪ませている。


 正直、ソウルもあまりいい気はしない。


「えっと……そうなんです。ジェイガン様の事件のことを知りたくて」


「だと思ったよ。あの聖女様の配下騎士様だからね」


 そう言ってハイドはゴソゴソとテーブルの上に何かを並べ始めた。恐らく証拠品の数々だろう。


 ジェイガンの鎧の破片に砕けた岩の塊。


 どれもジェイガンの持ち物や魔法のカケラばかりで死神に繋がりそうなものは見つからない。


「でも、なんで聖女様の配下騎士だと?」


 証拠品を物色しながらソウルは素朴な疑問をぶつけてみる。


 別に名乗った覚えもないし……。


「聖剣騎士団の配下騎士……それは君が思う以上に大きな出来事だからね。知らないところで有名になっているんだよ?君達新米騎士43班は」


「そうなんですの?」


 いまいちイーリストの世の中に疎いアルが首を傾げる。


「当たり前だろう?あの聖剣騎士団が初めて認めた配下騎士なんだから、国中で噂になってるよ。ただでさえあの有名な聖剣騎士団なんだから……」


 そう言ってハイドはよっこらせ、とテーブルにあてがわれた椅子に座る。ソウルとアルもそれに倣って対面に腰掛けた。


「さて…君らの目的はジェイガン様の事件のことで間違いないね?」


「はい。少しでも死神の手がかりが掴めればと思って」


 そう言って頭をかくソウルに対して、ハイドはその真意を測るようにじっと目を覗き込んできた。


「……だが、気をつけたほうがいい」


「気を…つける?」


 ハイドの言葉にソウルは首を傾げる。すると、証拠品をゴソゴソと漁りながらハイドは続けた。


「この仕事をやってるとね……本当に僕らの元には色んな騎士がくる。でも、その目的は大概2通りしかない。事件を解決するという使命感に燃える者。そして……復讐に囚われた者」


 ハイドの言葉は先程のジャンヌのことを彷彿させ、ソウルはドキリとした。


「それは、あの聖女様も同じだった」


 そんなソウルの意図を汲んでか、ハイドはジャンヌの事を思い出すように告げる。


「彼女も、さっきここに来た。必死に抑えているようだったがあれは燃えるような復讐に支配されているように見えた。これまで数多くの騎士を見てきたんだ、間違い無いよ」


「そんな…!ジャンヌ様に限ってそんなこと……」


 アルはそう告げるも、どこか自信なさげに声が尻すぼみになっていく。


 どこかでジャンヌを見かけたのだろう。確かにソウルの目にもジャンヌは復讐を果たさんとする怒りの権化のように見えた。


 きっと、普段の彼女を知らない人間からすればまだ分からないかも知れないがハイドは数多くの騎士達を見てきたはず。


 他の者には分からない雰囲気を読み取ったのだろう。


「君たちは……どうなんだろうね」


 ハイドは何やらソウル達を試すように呟いた。


「……分かんないですけど、俺は騎士としての使命を果たすつもりです」


「……そうか。でも気をつけてね」


 何かを含ませるようにハイドは告げた。



「積み上げるのは長い月日を要するけれど、墜ちるのは一瞬。それが例えどんなに立派な人間だろうと……ね」



 そんなハイドの忠告が、ソウルの胸に暗い影を落とした。

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