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騎士としてやらなければならないこと

「頼むよ!このままじゃ俺が殺されちまう!!守ってくれ!!」


 ガタガタと震えながら浮浪者は騎士に縋り付く。


「……」


「ジャンヌ様?」


 それを見たジャンヌはフラリと立ち上がり、男へと歩み寄る。


 その様子が気がかりで、ソウルもそっと後をつけた。


「その話、本当か?」


 ジャンヌは浮浪者に問いかける。


「あ…あぁ……!聖女様!!本当だ!!だから助けてくれ!!頼む、この通りだ!!」


 ジャンヌに気がついた男は地べたに頭をなすりつけながら懇願する。


「……いいだろう。ならば知っていることは全て話せ。そうすればお前を守ってやる」


「さ、流石聖女様だ!話す!何でも話すよぉ!!」


 確かに……目撃者を守ることは捜査を進めていく上でも、騎士としても必要なことだ。


 分かる……分かってる。だけど……。


「ジャンヌ…様?」


 マリアンヌさんもジャンヌの姿に違和感を感じたように立ち尽くしていた。


 男を見下ろす彼女の顔は、まるで恨みを晴らさんとする鬼のようだったから……。


ーーーーーーー


 ジャンヌはそのまま男を連れてどこかへと歩き去ってしまった。


 ソウルは後を追おうとしたが、「ありがとう。ジャンヌ様のことは任せな」と、マリアンヌさんに止められた。


 正直、あのジャンヌの表情が気になって仕方がなかったが、今のソウルにできることなんてきっと何もない。


 できることは、ここで調査の結果を待つことだけだ。


 空っぽの心で調査の様子を眺めているとやがて、現場は一通り調査が終わり、ジェイガンはどこかへと運ばれていった。


 しかし、肝心のソウルはまだ呆然とその場に立ち尽くしていた。


「……」


 どうして……?どうしてジェイガン様が?


 だが、思い返せば不自然なことは多々あったんだ。


 あの真面目なジェイガンが会議を途中で抜け出したこと。何かに気がついたような素振りを見せていたこと。


 もし、あの時彼にそれを問い詰めていれば。


 もし、あの時後を追いかけていれば。


 もし、昨日の夜、段取りを考えずにとりあえず路地裏を見回っていたなら。


 『もし』の追念が次から次へとソウルの心に押し寄せてはソウルの心を削っていく。


「ソウル様……」


 すると、マコがそっとソウルの手を握ってくれた。


「自分を、責めてはなりませんよ」


「……別に、そんなこと」


 そう言ってソウルはマコから顔を背けた。


 きっと、俺が何か行動を起こしていたのならこんな最悪の未来、避けられたかもしれないんだ。


 全て、『かもしれない』の話だけれど、何も行動しなかった自分が情けなくて、悔しくて、やるせない。


「マコの前で、嘘はつかないでくださいまし」


 しかし、マコはそんなソウルの顔を両手で捕まえてしっかりと目を覗き込んでくる。



「今、ソウル様はご自身のことを責めていらっしゃいます」



「……責めてない。これからどうするのかを考えてるだけだ」


「ソウル様。マコは、貴方のおそばにお仕えしてからずっとソウル様だけを見てきました」


 そしてグッと顔を近づけてくる。



「例え、マコにサトリの力がなくても……マコはソウル様のこと、何でもお見通しでございますよ」



「……怖い奴だ」


「はい。マコは怖い子です」


 そう言ってマコは優しく微笑む。


「だから、あえて怖いことを申します。ソウル様はここで立ち止まっていてはならないのです」


 はっきりとした口調でマコは続ける。



「まだ、ジェイガン様のことを悲しんでいる場合ではありません。過去はもう変えられませんが、これから先守ることができるはずのものはきっとあるはずです。かつてソウル様がマコを救ってくださったように、ソウル様の助けを待つ命が、きっとあるはずです」



「……」


 そうだ。俺は騎士だ。


 今はまだ、大切な大先輩の死を受けて立ち止まっている場合じゃない。だって…。


「……もう、これ以上犠牲者を出させるわけにはいかない」


「はい」


「……悲しむのも、悼むのも後だ。まずは死神を倒す……それがきっと今騎士として俺がやらなきゃならねぇことだ」


「その通りでございます」


 全く、情けない。


 またこうして1人で立ち止まってしまった。そして、こんな小さな女の子に奮い立たせてもらうなんて……カッコ悪くて仕方がない。


「悪いな、マコ。こんなカッコ悪い奴がご主人で」


 ソウルはそう言ってため息をつく。しかし、マコはキラキラとした目でソウルのことを見つめ返してくれた。


「いえ。今も、そしてこれからも。あの時私に救いの手を差し伸べてくださったソウル様はマコにとって、最高にカッコいいご主人様です」


 そう言ってマコはクルリと背を向ける。



「マコは今何も見ておりません。今なら、ソウル様が何をしても分かりませんよ」



「……あぁ、すまねぇな」


 そう言ってソウルはマントで自身の顔を隠す。


 滲む視界の中で路地裏の地面が、ポタポタと静かに濡れていった。

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