風獣【フェンリル】
魔法陣から眩い輝きが放たれる。
そこから現れたのは白銀の毛を揺らす巨大な狼。
その眼光は空色に輝き、目の前の獲物をギラリと凝視している。
大きさは体長3メートル程で爪の生えた巨大な足が歩を進める度にノシリ…と足音が静寂の路地裏に響く。
「ま…さか……?」
ジェイガンは死神の魔法に言葉を失う。
何だ?マナの類じゃない。目の前の獣からは明確な意思を感じる。
では、どこかからこの獣を転移させた?
いや、まるで今ここでその身が構築されたように見えた。ハミエルのような転移とは根本的に違う。
そして何よりもこの気配……この力の波動。
聖剣騎士団最初の配下騎士となったとある青年も似たような力の波動を放っていたことがある。
ということは…まさか……!?
「召喚…魔法……?」
「……さぁ、直接恨みを晴らせ!【フェンリル】!」
「ウォォォォォオ!!!」
白狼が吠えると共に空気が激しく震える。
その風圧は死神のフードをたなびかせ、その素顔をあらわにした。
「……っ!?」
現れたのは雪のように真っ白な肌と、絹のように煌めく金色の髪。顔の造形はまるで彫刻のように美しく、御伽噺の妖精を彷彿させる。そして、透き通るような深緑の瞳が、ただただ怒りに燃えてジェイガンを見ていた。
しかし何よりも特徴的なのはピンと伸びた彼女の耳。
それはある一族の特徴だ。
「貴様……【エルフ】か!?」
身をも切り裂く凄まじい豪風の中、ジェイガンは叫んだ。
「全て滅んだと思ったか!?滅んでなどいない!!私は『妖精の森』復讐の執行者!!一族の魂をこの身に宿し、森を焼いた全ての者を殺すその日まで、私を止められるものはいない!!」
「ウォォォォォオオオオ!!」
死神の激情に応えるようにフェンリルは更に雄叫びを上げた。
そして、それを見たジェイガンは……。
「……ふ」
小さく笑った。