罪と向き合う
そんなアクシデントがありつつも、話は元の死神へと戻る。
「取り敢えず、我々がやらなければならないことは3つだ」
そう言ってジャンヌは腕を組みながら街の地図を指差す。
「まず第一に、死神の被害を未然に防ぐこと」
「うむ。奴を捕らえるよりまずは被害を食い止めることが重要だろう」
そう言ってジェイガンが強く頷く。
奴を捕らえるにしても、まずは被害を未然に防ぐこと。これ以上悲しむ人々を増やしてはいけない。
「そのために取り敢えずデュノワールとマリアンヌの2人に街の見回りを依頼している。だがそれでは問題の先延ばしにしかならん。そこで次は死神を捕らえることが必要だ」
防止策を敷いたところで問題が解決する訳じゃない。大元となる死神本人を捕らえなければ事件は解決したことにはならない。
当然、死神を捕まえるために動くことになる訳だが……。
「じゃあ、最後の1つは何なんです?」
死神を捕まえて終わりではないのか?
その先に一体何があると言うのだろうか?
「死神に罪と向き合わせることだ」
ジャンヌは凛とした態度でソウルに告げる。
「奴がやったことの責任を取らせなければならない。それが極刑になるのか、はたまた別の形の罪が課せられるのかは分からないが……奴に自身の罪の重さを自覚させ、償わせなければならない」
「罪を…償わせる……」
ソウルはジャンヌの言葉を反芻する。
「……でも、それって倒すことと同じじゃないの?」
すると、シーナは小首を傾げながらジャンヌに問いかけた。
「……こんなにたくさん人を殺しているのなら、きっと極刑になるはず。だったら倒すことと何も変わらないと思う」
「率直な意見だな」
ジェイガンがふぅと息をつきながら呟く。
「あぁ、結果は同じかもしれない。だが、過程が違う」
ジャンヌはシーナの目を見る。
「だが、我々は騎士だ。武力を行使することを認められている立場である以上、力に責任を持たなければならない。罪を犯したというのなら諭し、導くこともまた騎士の使命だ。ただ闇雲に敵を討てばいいと言うわけではないのだ」
「……そっか」
ジャンヌの言葉にシーナはコクリと頷く。
「そうだ。例え大罪を犯したとしてもそれに向き合わせることもまた騎士の役目だ……だから……」
ジャンヌの言葉にうんうんと頷いていたジェイガンがふと言葉を止める。
「……大罪を」
そしてじっとジャンヌが広げた見取り図と被害者のリストを見つめたかと思うと、そのままカッと目を見開いた。
普段のジェイガンではあまり見たことがない光景にソウルは違和感を感じる。
「ドラフ……エルヴィン……マース……。まさか……」
「どうしたジェイガン?」
何やらブツブツと呟くジェイガンの様子がおかしいことに気がついたのだろう。ジャンヌはいぶかしげに声をかける。
「いや…何でもありません」
「しかし、お前……」
「何、少々気になったことがあっただけです。それでは私も少し出てきます」
「お、おい待てジェイガン」
ジャンヌの制止を聞きつつも、ジェイガンは歩みを止めることなく部屋の外へと歩き出す。
「大丈夫。すぐに戻りますよ」
そう言ってジェイガンはふっと笑いながら扉を閉めるのだった。
ーーーーーーー
そのままソウル達に指示を出して会議は解散となり、部屋にはジャンヌとケイラだけ。
ハミエルはソウル達の見送りに出ていった。
「ジェイガン様……どうしたんでしょう?」
「うーむ。よく分からんな」
会議の途中で抜け出すなんてこと、真面目を体現したようなジェイガンにはありえない。
ただごとではないだろうが……。
「まぁ、ジェイガン様のことです。きっとすぐに戻ってきますよ」
「それもそうだな」
あの鉄壁で頑固なジェイガンのことだ。すぐに戻ってくるだろう。
そう考えながらジャンヌは死神の出没マップにまた思考を沈めるのだった。
ーーーーーーー
一方その頃、ジェイガンは1人城の資料室の中にいた。
イーリストの資料室にはいくつもの魔石板が置いてあり、それら1つ1つが情報端末としての働きを持っている。
それらには騎士達の様々な情報が落とし込まれ、誰でも情報が共有できるようになっている。
「……やはり」
そこで狂ったように12年前のある資料を読み漁る。
「『妖精の森殲滅作戦』。参加騎士ドラフ……エルヴィン。マースも……」
暗い資料室にギリリとジェイガンの歯軋りの音が響く。
かつての罪。
逃れられない過去を思い出しながら立ち上がるとドアをバンと蹴りあける。
その様子に資料室の司書はビクリとしながら中から現れた大男に震え上がった。
そんな周りの様子も気にならないほどにジェイガンは思考に耽っていた。
「……」
そうか、私もいよいよ罪を精算する時が来たか。
「ならば……ならば私は……!」
ジェイガンのその先の言葉は騎士達の雑踏に紛れ、消えていった。




