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【マリアンヌのお見合い】家族の絆

 もう、あの小さなベッドに横たわる赤ん坊はいない。


 立派に巣立ち、1人でたくましく生きていけるまで成長してくれた。


 それに、隣を歩いてくれる伴侶に出会うこともできた。


 ここが、別れ目。この先、あの娘が振り帰る余裕もないくらい明るい未来が待っているのならば、後腐れなく終わってやるのが姉の務め。


「もう、私がマリアンヌにしてやれることなんてありません。後はあなたが守っていくのでしょう?だから私はもうあの子の前に現れるつもりはありませんわ」


 そう言ってどこかケジメをつけたような顔でラティシアは告げる。


 その一見強そうでありながら、どこか強がりな姿はまるで……。


「……ほんと、あんたら2人は姉妹だよ。でもな、ラティシアさんよ」


 デュノワールはチラリと窓の外を見て弾丸のように庭を駆け抜ける赤いそれを確認する。



「あいつは、俺らが思い通りにできるタマじゃねぇみてぇだぜ?」



 ドドドドドドドド!!



 ラティシアの耳に廊下から何かが迫りくるような音が聞こえてくる。


 そして、バァンッ!とラティシアの部屋が勢いよく開け放たれた。



「ら、ラティシア姉さん!!」


「マリアンヌ……」


 汗だくになりながら、ゼェゼェと息を荒げる妹の姿に、ラティシアは驚きのあまりただただ目を丸くすることしかできない。


 何故、あなたがここに?


「さ…さっきの言葉は訂正するぞ!」


 息つく間もなくマリアンヌはピシリとラティシアに指差すと高らかに宣言した。



「確かに、このシルフラン家に生まれてきたことは、あたしにとって不幸だった!こんなクソみてぇな人生…ほんっっっとうに嫌だった!!!でも……だけど……!」



 恥ずかしさで顔が赤くなる。でも、今ここで言えなければ、もう一生言えない気がした。


 もう、半ば勢いなところはあるがそれでもここで言おう。




「ラティシア姉さんが姉さんだったことだけは……幸せだった」




「……っ」


 マリアンヌの言葉がラティシアの胸を熱くさせる。


 そして、じわりと瞳の奥から熱い何かが溢れ出してきた。


 別に、聞きたかった訳じゃない。


 ただ、マリアンヌが愛しくて大切だったから。だから私はこの娘を守ると決めた。


 決して伝わる事なんてないし、伝えるつもりもないと思っていた。


 花言葉なんてものを、この娘が知るはずない。だからサルビアの花を渡した。


 ただの自己満足のため。あなたを想う家族はいるのだということを、花を送ることで示したかっただけ。


 伝わったとしても、感謝なんてされるわけが無い。疎まれるだけだとそう思っていた。


 だが、今こうして目の前に立つ彼女の姿は本当に……あの時と同じ。


 真っ赤な髪を揺らすその姿は。


「本当に……あなたは太陽のように暖かい娘に育ちましたわね」


「……っ」


 マリアンヌの瞳からも涙がこぼれる。


 今思い返してみればそうだ。


 マリアンヌが辛い時、悲しい時。いつもラティシア姉さんがそばにいてくれた。


 別段優しい言葉をかけてくれるわけでもなく、面白おかしくマリアンヌをいじくるだけだったけど、本当はマリアンヌの事を気にかけて見守ってくれていたのだ。


 この20年間、ずっと……ずっと……!


 クレアお母様の目もあったし、下手をすれば自分が全て失うことになっていたかもしれないのに。


 きっと、4年前のあの事件の時に聖剣騎士団を呼んだのも、聖剣騎士団に入りたいと言った時にとんとん拍子に話が進んで行ったのもきっと、全部ラティシア姉さんがいてくれたからだ。


 なんて自分は馬鹿だったんだろう。なんで、今日この日まで気付けなかったんだろう。


 気づいていたのならあたしは……あたしはもっとラティシア姉さんと……。



「……行けよ。強がりさん」



 デュノワールはそっとその場に立ち尽くすマリアンヌの背中を押す。そのままマリアンヌは吸い込まれるようにラティシアの腕の中へと飛び込んだ。



「マリアンヌ…愛していますわ……」



「……るっせぇ。バーカ」


 マリアンヌは優しく温かい腕の中でどこか声をうわずらせながら、そうポツリとこぼす。


 この温もりは、どこか懐かしいような気がする。


 遠い、遠い昔。まだマリアンヌがとてもとても幼い頃にこうして抱きしめられたような感覚。


 記憶には残っていないけれど、この体が覚えていた。


 あぁ……そうだったんだ……。


 その瞬間、全てを理解した。


 こうして、家族に大切にされていたことが……このシルフラン家の中にもちゃんとマリアンヌの居場所があったのだ。


「……ありがとう。ラティシア姉さん」


 溢れる涙をボロボロと零しながら、マリアンヌは告げる。


 そんな2人をデュノワールは陰からそっと見守るのだった。

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