【マリアンヌのお見合い】お見合いの行き着く先
辺り一面焼き焦げた賊たちが転がる中。
「てめっ!?何でここに!?」
元気を取り戻したマリアンヌは真っ赤な顔でデュノワールの胸を叩きつけていた。
「あー、るっせぇるっせぇ。フォルスの馬鹿がまた出たっていうからよ、しばきに来たんだよ。ケジメをつけるためにな」
小指で耳をかきながらデュノワールは明後日の方向を向いている。
そんなデュノワールの態度にカチンと来ながらマリアンヌは更にボカボカとデュノワールを殴りつけた。
「いてぇいてぇ!?力の加減ってやつを……っておい?マリアンヌ?」
しかし、その腕にいつもの力はなくどこか弱々しさを感じさせる。
「何だよ……せっかく……せっかくお前が助けに来てくれて……嬉しかったってのに……」
絞むようにそう告げるマリアンヌの瞳からはポロポロと涙が溢れていた。
「ちゃんと…あんたがあたしを見てくれたんだって……そう思ったのに……!」
「あ…ちゃ、その……ま、待てってマリアンヌ。えっと……」
いつも勝手気ままなデュノワールにしては珍しく狼狽し、泣き崩れるマリアンヌにどう声をかければ良いのか分からなくなってしまう。
だが、流石にこのままマリアンヌを蔑ろにすることはできない。
「……わ、悪かったよ。ほんとはお前が誰かのもんになるって聞いて、居ても立っても居られなかったんだ」
やがて、強がることを諦めたデュノワールは素直に胸の内を露わにした。
「情けねぇ話だ。お前の幸せのために俺は身を引くって決めたのに、ずっとお前を諦めきれねぇ俺がいたんだよ。だから…その……すまねぇ、色々と」
顔を両手で隠し、プルプルと震えるマリアンヌにデュノワールは力なく告げる。
そして。
「ぷっ。あはははははは!!!」
突然マリアンヌが声を上げて盛大に笑い始めた。
「……へぁ?」
状況を理解できないデュノワールは目を点にしながらそんなマリアンヌを見つめる。
「さっき、あんたがフォルスにゆったこと、そのまま返してやるよバーカ!!」
ヒーヒーと腹を抱えて笑いながらマリアンヌは告げた。
「あたしだってこの4年間、ずっとあんたの事を想い続けてきたんだよ。あたしの目指す未来のために…想いを貫くために。残念ながらあたしはあんたみたいに簡単に折れるような柔な女じゃねぇんだよ!」
「んなっ!?」
マリアンヌの幸せと思って自分の想いを諦めようとするデュノワール。
それでも、ずっとデュノワールを想い続けたマリアンヌ。
どちらの想いが強いかだなんて、そんなの一目瞭然だ。
「あたしの勝ちだなデュノワール!もうあたしはお前を離さねーぞ!!」
そう言ってマリアンヌは満面の笑みでデュノワールに抱きついた。
「……っだぁ!くっそぉ!!やられたよちくしょー!!!!」
マリアンヌの意図を理解したデュノワールは叫びながらマリアンヌを抱きしめ返した。
「ほらほら、誓えよー?私の勝ちだってことをなー?」
「くっそ……ほんとお前には敵わねーよ、マリアンヌ」
本当の想いを隠して逃げ続けるデュノワールと、本当の想いをぶつけて追いかけ続ける2人の戦いは、完全にマリアンヌの勝利だ。
ついに、マリアンヌはデュノワールの本心を引きずり出した。
これで、もうデュノワールは逃げることなんてできない。もう、自分の心はマリアンヌに晒してしまったのだから。
完膚なきまでにデュノワールの負け。もう俺はこの女には敵わない。
そしてデュノワールは自身の頭に手を伸ばし、自分の頭に刺さるカチューシャをマリアンヌの頭にそっと戻す。
本来あるべき場所へ。
デュノワールが彼女を立派な女だと認めた証として。
「へへっ」
「ふん」
2人は互いに目を閉じ、そして。
熱いキスを交わした。
ーーーーーーー
ソウル達が到着した時。そこには堅い抱擁を交わしながらキスをするデュノワールとマリアンヌの姿があった。
「んなっ」
「わぁ……」
「……っ」
その光景に思わず3人は頬を赤く染める。
「あはは。全く、最初から僕らの出る幕なんてなかったんだよ」
ケラケラと笑いながらレイはそっと3人の手を引く。
「最初から、あの2人さえいれば今回の件は上手くいった。まぁ、僕らは残念ながら道化でしか無かったってわけさ」
つまり……つまり、ソウル達の奮闘は、無駄だったということだ。
「だぁーもぉー!だったら塩コーヒーなんてただの骨折り損だったじゃねぇかー!!!」
「ソウル、よしよし」
ソウルの悲鳴は虚しく広いシルフラン家の屋敷にこだまする。
こうして、マリアンヌさんのお見合いは1番幸せな形で幕を下ろしたのだった。