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【マリアンヌのお見合い】諦めた者と諦めなかった者

 マリアンヌの意識が弾かれたように覚醒する。


 見上げると、そこにはいつものあのバカの顔。ふざけた態度でいつもマリアンヌにちょっかいをかけてくる見慣れた顔。


 そして、今この瞬間。マリアンヌが1番会いたかった男がそこにいた。


 レイから譲り受けたタキシードを身につけたデュノワールはマリアンヌを抱き抱えながら戦鎚を振りまわす。


 デュノワールの戦鎚が風を切るたびに2人を取り囲む男達はまるでおもちゃのように次々と吹き飛ばされていく。


「な…何であんたがここに……?」


 状況が理解できないマリアンヌは口をパクパクとさせながらデュノワールの顔を見つめることしかできない。


「言っただろーが、マリアンヌ」


 少し頬を赤く染めたデュノワールが照れ臭さをかき消すように戦鎚を振り回しながら告げる。



「女としての証は俺が奪ったってな。だから、勝手に他の男のもんになろうとしてんじゃねーよ」



「ばっばばばばばバカ!?そんな恥ずかしいことよくそんな惜しげもなく言えんなぁ!?」


「お、おい!?暴れんなって!?」


 マリアンヌは痛みも忘れてバタバタと手足を振り回す。


「くっそ…ここまできて……また邪魔を……!」


 ラザナスは目の前に現れたデュノワールを睨みながら歯軋りをする。


「はっ。残念だったな、俺の目が黒いうちはマリアンヌに手出しはさせやしねぇ!ラザナス……いや」


 デュノワールは戦鎚にマナを込め、ブンとラザナスに向けて投擲しながら叫んだ。


「フォルスさんよ!!」


 ゴッ


 ラザナスの周囲の景色がグニャリと曲がり、ラザナスの顔を変形させる。そして。


「へぇ。いつから気がついていたんだ?デュノワール」


「な!?」


 そこには眼鏡をかけた青い髪の男。4年前、マリアンヌ誘拐計画を実行した張本人の姿があった。


「けっ。奴隷商売やら何やら小汚いことで成り上がってやがるフローレンス家のことは前々からきなくせぇと思ってたんだ」


 デュノワールは戦鎚を受け止めながら告げる。


「そんで、サルヴァンを潰されたことで美味い汁を吸えなくなったお前はまたシルフラン家を利用することを思いついたってとこだろ?第2のサルヴァンを生み出すための後ろ盾を手にするためにな!」


 ラザナス…いや、フォルスは4年前の事件を通して貴族達とのコネを成立させたのだろう。


 それを利用して新たな一派『フローレンス家』を立ち上げ、奴隷売買で莫大な利益を得た。


 しかし、聖剣騎士団とソウル達の活躍によってサルヴァンの奴隷制度は崩壊。フォルスはたちまち商売が立ち行かなくなってしまう。


 だから、フォルスには新たな奴隷売買の場を作り出すことが必要だった。


 しかし、いくらフォルスが奴隷売買を再開しようと所詮若輩者。実績も何もない新参者に着いてくる者などそうそう出てこないはず。


 そこで、今回の計画だ。


 強力なシルフラン家の主導権を握るクレアはマリアンヌの事などなおざりに扱うことは明白。フローレンス家の資産をエサにマリアンヌの婚姻を申し出れば必ず乗ってくると踏んだ。


 そして見事マリアンヌをめとることができればシルフラン家という強力な家の名を使って新たな奴隷商売の場を作り出すことができる、と考えた訳だ。


 だが、そうなると1つ分からないことがある。


「しかし、分からねぇなフォルス。いくらマリアンヌが求婚に乗ってこなかったからってこんな強硬手段に出るなんて……一体マリアンヌをどうするつもりだったんだ?」


 そう。この計画はマリアンヌとの結婚ができなければ成立しない。


 婚姻が断られたからと言ってマリアンヌを攫っても何のメリットもないはず。


「ふふふ。これを見たまえよ、デュノワール」


 すると、フォルスは懐から白い輝きを放つ1つの宝玉を取り出した。


「これは【忠義の紋章】という魔法道具(マジックアイテム)だ。この宝玉は1人の人間に対して【奴隷紋】と同じ効果を付与することができる」


「ってことは、まさかてめぇ!?」


「そうだ。マリアンヌを【忠義の紋章】で奴隷とし、逆らえないようにして無理やり婚姻を結ばせるというわけだ!」


 マリアンヌが婚姻に乗ってこないのであれば逆らえないようにしてしまえばいい。


「まぁもっとも、この宝玉は相当珍しい物であまり使いたくなくてね。その為にいくつもの魅了効果のある魔法道具を使ったのだが見事にそれも無駄だったよ」


 なるほど。あのラザナスの側で香ったあの思考を惑わせる甘い匂いも何かしらの魔法道具だったのだろう。危うくあいつの思惑にハマってしまうところだった。


「ったく…本当に堕ちるところまで堕ちたなフォルス」


 虐げられる者を助けよう。守り抜こうと誓い合ったかつての仲間はもういない。


 悪に染まり、見るも耐えない外道へと成り果てたフォルスが怒りを通り越してもはや哀れにしか見えなかった。


「はっ。そういうお前は相変わらずバカなんだよ。4年も経ってまだそんな絵空事を言ってるのか?いい加減現実を見ろ。聖女がどれだけ活躍しようが世の中何か変わったか?次から次へと現れる悪党達に私欲を貪ることしかできない腐り切った貴族。はっきり言ってやるよ、聖女の働きなんて無駄だ!」


 そう言ってフォルスは魔法を展開し、蜃気楼の向こう側へと姿を消した。



「あの時と同じだデュノワール!所詮お前は僕に勝てない!また無様に地べたに這いずるがいい!!」



「おおおおおおお!!」


 同時にフォルスの部下達が一斉にデュノワールに襲いかかる。


「お、おい。デュノワール!?」


 4年前のあの時と同じ。


 人の波に隠れてデュノワールを襲う作戦。


「……はぁ。ったくよ、フォルス」


 そんな4年前と何も変わっていない男に呆れながらデュノワールは戦鎚を振り降ろした。



「なめんな」



 ドゴッ!!


「くぁっ!?」


 ブワァッと空間が歪む。そして、デュノワールの戦鎚の先には叩き潰されてピクピクと痙攣するフォルスの姿があった。


「なっ!?」


「何故ボスの位置が分かった!?」


 フォルスの部下達から声が上がる。


「俺はこの4年間、ずっと戦い続けてきた。俺の目指す未来のために……俺の信念を貫くために。お前みてぇに簡単に折れるような柔な男じゃねぇんだよ」


 あらゆる困難に負けて自分の信念を捨てたフォルス。


 あらゆる困難にぶつかってもなお自分の信念を貫き続けるデュノワール。


 諦め、成長を止めたフォルスと、諦めずにひたむきに成長を続けたデュノワール。勝敗は当然の結果だ。


「あの時の俺は気配なんてもん分からんかったが今ならどれが誰の気配なのかなんてもん、簡単に分かるさ」


「ぐ…あぁ……」


 無様に転がるかつての仲間に哀れみの目を向けながらデュノワールは告げた。


「さぁて。お前ら全員ここでおしまいだ!!」


 そして、イーリスト城下町の一角に1つの雷鳴が響き渡った。

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