表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
471/1167

【マリアンヌの過去】援軍

 ゴォォォォォ……と残響が響く。


 新たな力、【暴火】のマナ。その出力に攻撃を終えたマリアンヌの身体が軋んだ。


「ぐ……」


 しかも、元々魔封石で力を吸われていた身。残されたマナを全て吐き出した彼女にもう立ち上がる力すらも残されていない。


 だが、その甲斐もあって義勇団のアジトは爆炎で半壊し、団員は四方八方に吹き飛ばされあちらこちらで倒れ込んでいた。


 ガラァッ


 しかし、全員を倒すことなんてできない。


 やがてちらほらと倒れた義勇兵達が立ち上がり、よろよろとマリアンヌに向けて歩き始める。


 そして、その中にはやはりあのフォルスがいた。


「くそ…くそぉ……僕の積み上げて来たアジトが……その努力が……!?」


 煙を上げ、無残にも吹き飛んだアジトを眺める。


 その顔は怒りに醜悪に歪み、ギリギリとマリアンヌに聞こえるほど歯軋りをしていた。


「ざ、まぁねぇなぁ!小悪党め!」


 マリアンヌは膝をつきながらもニヤリと笑いながらフォルスに悪態をつく。


 これ以上戦えないが、一矢報いてやった。ざまぁみろ!


「自惚れるなよ!?この小娘が!!貴様のような下賤なメスガキに僕の計画を潰させてたまるかよ!意地でもお前を奴隷にしてサルヴァンに売りつけてやる!」


 そう言ってフォルスがマリアンヌに迫る。


 だが、対するマリアンヌにそれに抗う術などない。先程の一撃で倒しきれなかったのであれば、完全にマリアンヌの負けだった。


 それでも。


「まけ…るかよ……!」


 マリアンヌは迫るフォルスから逃れようと地を這いずる。


 その姿は、高貴な貴族なんかでは到底考えられないように見窄らしく、そして惨めだった。


「ふはははは!お高くまとまったシルフラン家の人間が、無様なものだな!!そんな醜態を晒して恥ずかしくないのか!?」


 そんなマリアンヌをフォルスはゲラゲラと笑う。


「何とでも言えよ、小悪党が!」


 負けたくない。


 せっかく、希望が見えた気がしたんだ!


 私が私らしく生きていけそうな、そんな未来がそこにある気がするんだ!この胸に生まれた熱い気持ちを、こんな所で終わらせたくなんかない!


 諦めない。どんなに無様だろうと。


 それがどんなにシルフラン家の名に恥じる行為だったとしても。


「あたしは、生きたいんだ!シルフラン家のマリアンヌじゃない!ただのマリアンヌとして!今ならきっと、新しい一歩を踏み出せるはずだから!!こんな所で……こんな所で負けてたまるかぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


「負けるんだよ!お前は無様にな!!とっとと諦めて俺の奴隷に……」


 シュンッ


 その時、フォルスの脇を小さな何かが通り抜けた。


「な…んだ?」


 どこからともなく怪訝な声が聞こえたかと思った、次の瞬間。


 スパパパパパパパァン!!


 闇夜に何かが破裂するような音が響き渡る。



「ぎゃぁぁぁぁあ!!?」



 それに呼応するようにあちらこちらで義勇団達が悲鳴をあげ、次々と地面に倒れていく。


「な、何だ!?何事だ!?」


 フォルスはその非常事態に辺りを見渡す。


 目を凝らすと、そこには何か小さな鳥のようなものが超速で飛び回り、義勇団の者達を打ち倒しているのが見える。


 まさか…騎士!?


「ぬうん!!」


 すると、今度はボコりと土が盛り上がりフォルス達の退路が絶たれていく。


「だ、誰だぁ!?」


 フォルスは未だ見えざるその敵に、声を荒げる。そして。



「お前達が、シルフラン・マリアンヌを誘拐した賊だな?」



 そこに、凛とした1つの声が投げかけられた。



「な……!?」


 現れたのは、1人の金髪金眼の少女。


 大きな金色の両手剣を地面に突き立てたその少女は14、5ほどの歳に見える。


 まだまだあどけなさが残る幼い容姿からは考えられない威圧感を放ちながらフォルスを見上げていた。


 マリアンヌにはその金髪金眼の少女に見覚えがある。まさか…あの少女は……!?


 少女に視線を釘付けにしながらマリアンヌは倒れたデュノワールを抱き寄せる。しかし、やはり出血が酷く彼の身体が段々と熱を失っていくようだった。


「お、おい!しっかり……」


「安心してください」


 そんな2人のそばにフワリ…と1人の綺麗な女性が着地する。長い薄緑の髪をしたその女性は優しい笑みを浮かべると、そっとデュノワールに手をかざした。


「あ……」


 すると、デュノワールの傷がたちまち塞がり、荒く小刻みだった彼の呼吸も徐々に穏やかになっていく。


「もうこれで大丈夫ですよ、よく頑張りましたね」


 彼女はそう言って唖然とするマリアンヌの頭をそっと撫でる。


 その瞬間、マリアンヌはどっと脱力した。


 助けが……助けが来てくれたんだ……!!


「何だ…こいつは?ふ、ははは、そうかこんなガキが援軍か!無様だな!こんなガキしか助けにきてくれないなんて、自分の運命を呪うんだな!マリアンヌ!」


 フォルスは強がりにも似た皮肉を言いながら剣を構える。しかし、目の前の少女はそんなフォルスの揺さぶりに一切動じない。


「何とでも言うがいい。私は成すべき事を成しにここにきた」


 その態度がフォルスの怒りの琴線を刺激する。こんなガキが、舐めた事を……!


「貴様なんぞができることなんて何もないだろう!?ついでにお前も捕らえて一緒に奴隷として……」


 そう言ってフォルスは感情のまま剣を抜き、少女に襲い掛かる。


 対する少女はそのフォルスを迎え撃つように剣を構える。



「ならば、私は聖女として貴様をここで打ち倒そう!」



 そして、少女は俊速の速さで剣を振った。



 ギィィイン!!



「な……に?」


 カラン……。


 フォルスの剣が真っ二つに斬り飛ばされ、その刀身が宙を舞う。


 そして次の瞬間にはその剣圧でフォルスの身体も吹き飛ばされ、地を転がった。


「うっ、ぎゃあああああっ!?」


 血を振り撒きながら悶え苦しむフォルスは自身の身体を見て絶望する。


 フォルスの身体は剣ごと肩から腰にかけてばっくりと斬られ、ドクドクと大量の血が溢れていた。


「ひっ…ひぃぃっ!?」


 痛みで震える身体を抱きながらフォルスは悲鳴を上げた。そんな彼に少女は凛と告げる。



「ここまでだ。大人しく降伏するがいい」



 強く、そして美しいその姿はまさに勝利の女神のようにマリアンヌの目に映った。


 なんて、なんてかっこいいのだろう。


「わ…わわわわかった……降伏する……降伏するから命だけは……」


 そう言ってフォルスが命乞いを始めたその時だった。



『ウオオオオオオオオオオ!!!!』



 どこからともなく1つの咆哮が響き渡った。


「何事だ!?」


 突然の事態に少女が空を見上げる。すると、そこには巨大な水龍の姿があった。


「あれは……魔法か!?」


 強大なマナを放つそれは生き物や魔獣のそれではない。何者かの魔法だった。


 それは宙で弧を描くようにグルリと旋回し、ギラリとフォルスにその鋭い目線を向ける。


 そして。


『ウオオオオオオオオオオ!!!!』


 そのまま一直線にフォルスに向かって突進してきた。



「へぇあ?」



 バクンッ!


 水龍は気の抜けた声を上げるフォルスに食らいつき、そのままゴクリと飲み込んだ。


「くっ!?」


 少女はたまらず剣を振るが、強大な力を持つ水龍はするりとその身を翻すと、たちまち空高くに飛び上がり、そのまま夜空の彼方へと飛び去ってしまう。


 それはまるで一陣の風のようだった。


「しまった!?」


 少女はたまらず後を追おうとするが、紫の鎧に身を包んだ大男がそれをいさめる。


「深追いはやめましょう。敵の全貌が見えない」


「しかし!?」


「……あれだけ強大な魔法を使う相手です。余程の手だれでしょう。我々はまだそこまで介入できる力も権力もない。取り敢えずマリアンヌの奪還は成功したんだ、一応任務は達成だよ」


 あの水龍の使い手にある程度目星がついている黒髪の男も先走ろうとする少女を説得する。


「……くっ」


 少女は悔しそうに眉を潜めながら渋々その剣を下げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ