【マリアンヌの過去】自分の生き様
しまった……。
そう思った時にはデュノワールの身体から力が抜けていた。
カクンと膝から崩れ落ち、そのまま硬い地面に倒れ込む。
熱い自分の血がドッとデュノワールの胸から溢れ、地を真っ赤に染める。
「ふむ。やはり人を隠すのなら人の中……だな」
そして何もない空間がグニャリと曲がると、そこからニヤニヤと笑うフォルスが姿を現した。
「くっ……そ……」
フォルスの力は幻を見せるだけじゃない。奴自身の姿を周囲の景色に溶け込ませ、消すことができる。
気配までは消せるわけではないが、これだけ大人数で囲まれていれば、気配になんて気づくことはできなかった。
「無様だなぁ。いくらかっこよくて立派な志を持っていようと、所詮人は悪に屈するんだよ。世の中卑怯で賢い奴が勝つようにできてるのさ、こんな風にな!!」
ズドォッ
「ぐっ…はぁっ……」
フォルスは倒れ込んだデュノワールの傷を抉るように蹴りあげる。
デュノワールは血反吐を吐きながらその場で悶え苦しむことしかできない。
「急所を突いた。もう長くは持たないぞ?懺悔の言葉を残すなら一思いに殺してやるが……どうだ?」
下卑た笑みを浮かべながらフォルスはデュノワールの頭を踏みにじる。
「ふ…ざけろぉ……」
消え入りそうな声でデュノワールは唾を吐く。
ドスッ
「ぐぁぁあ!?」
フォルスは身動きの取れないデュノワールの足に剣を突き立てる。
「痛いだろぉ?苦しいだろぉ?そろそろ諦めて根を上げろよ。つまらない正義心なんか捨ててさぁ!『申し訳ありません、フォルス様の言うことが正しかったです』ってなぁ!」
ゲラゲラと笑いながらフォルスはデュノワールを踏みつける足をさらにグリグリと押し付けた。
「ぶ…ざまだぜ……フォルスよぉ」
だが、デュノワールは折れなかった。
「どうせ…テメェのことだ。不安なんだろ?悪の道に染まることが、不安で不安でしかたねぇんだろ?だから俺に言わせてぇんだろ!?『間違ってない』てなぁ!」
「な、何を!?う、うぎゃあ!?」
動けないはずのデュノワールがフォルスの足をガッシリと掴む。
ミシミシと足は悲鳴をあげ、フォルスはたまらず悲鳴をあげた。
「テメェは昔からそうだ!臆病者だからな!男なら、しっかり胸を張ってろよ!ゴキブリ野郎!」
デュノワールは立ち上がり、もう片方の手で握り拳を作る。
「誰に何と言われようが、自分の生き様ぐらい、自分で決めて見せろよこの野郎が!!俺は誰になんて言われようがこの生き方を変えるつもりはねぇ!例えそれで死ぬことになっても、言い訳なんかしねぇ!!お前とは違うんだ!!フォルス!!!」
ドゴッ!!
「ぐっ、ぎゃああああ!?」
デュノワールは怯むフォルスの頬に拳を叩き込む。
フォルスは悲鳴をあげながらまるで人形のように無様に地を転がった。
「……ぐっ」
だが、デュノワールもそれで限界だ。
今度こそ完全に身体から力が抜け、視界がぐらりと歪み始めた。
「ひ、ひひっ。ひひひひっ!お、おおお前がどう足掻こうと!僕の勝ちは変わらない!とととっとと死ねよぉ!やれお前らぁ!!」
フォルスは震え上がりながら叫ぶ。
かつての仲間達がそんなデュノワールにまた武器を構えた。
「……ちっ」
「死ねぇ!デュノワールのアニキ!」
そして無数の凶刃がデュノワールに襲いかかる。
ここまでか……。
そう思った次の瞬間。
クククククンッ
数多の武器が軌道を変えて、あらぬ方向へと流れていく。
「【流水】……」
デュノワールの目前に赤く燃え上がる瞳を輝かせたマリアンヌが立っていた。
その手には1本の槍。さっきデュノワールが倒した奴らから奪ったのだろう。
「死ぬなよ…あたしの人生に希望を持たせたまま死のうとすんなよ!!」
そう叫びながらマリアンヌはマナを溜める。
火が、ついた気がしたんだ。この私の心に生まれて初めて。
燃え上がりそうなこの気持ちをそのままにして、いなくなろうとするなよこの馬鹿!
「あの女は殺すな!僕が幻を見せて撹乱するからその隙に捕らえろ!」
フォルスがそう言うとまたグニャリと空間がねじれる。
そして義勇団の面々がその幻の中に姿を消していく。これではどこから攻撃されるかなんて、分ったものではない。
しかし、マリアンヌは負けじとマナを溜める。
そんな幻なんか意味がないぐらいに、全部全部。ぶっ壊してやるよ、このやろう!!
マリアンヌの火のマナが彼女の激情を受けて変化する。
覚醒。
マリアンヌのマナが新たな力へと進化した。
「全部まとめてぶっ壊してやる!!【暴火】と【強撃】のマナ!!【爆裂】!!!」
マリアンヌが槍を振る。そして。
ドゴオオオオオオオ!
フォルスの幻ごと全てを吹き飛ばす爆発を巻き起こした。




