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【マリアンヌの過去】マリアンヌ誘拐計画

 デュノワールとマリアンヌは人気のない義賊団のアジトを駆け抜けていた。


「ど、どういうおつもりですか!?どうして私をここから逃がそうなど!?」


 デュノワールに引っ張られながらマリアンヌは叫ぶ。


「いいかマリアンヌ!この誘拐は仕組まれたもんだ!!」


 デュノワールは振り返りもせずにただひたすらに前を見つめながら告げる。


「立案者はお前の母親のシルフラン・クレア!俺達にお前をさらわせて家からお前を追い出すのが目的らしい!」


「……」


 なるほど、クレアお母様が……。


「何だ、思ったより驚かねぇな」


 納得したように俯くマリアンヌにデュノワールは怪訝な顔をする。


「えぇ。私はあの家に必要のない存在なのですから、むしろ納得しました。まさかお母様が私を追い出すためにここまでするとは思わなかったですけれど」


 そう言ってマリアンヌは足を止めてしまう。


「お、おい……」


「……ほんと、私は何のために生まれてきたのでしょうね。実の母からは疎まれ、自由に生きることもできないこの私は」


 心を殺して生きてきた。


 どうして?あれだけ疎まれて来たというのに、どうして私は家を飛び出さずに頑張って来たのだろう。


 本当は…認めて欲しかったのかもしれない。


 自分の存在意義を。自分の居場所なんてないあの家のどこかに求めていたのかもしれない。


 いつか、どんなに苦しいお稽古だって何だって乗り切ることができれば、いつか私を認めてくれるんじゃないかって。心の奥底で、そう思っていたのか。


 でも、今回の件ではっきりとした。



 どれだけ私が頑張っても、あの家に私の居場所なんて、ないのだと。



「……くそっ。くそっくそっ!くそぉ!!」


「……マリアンヌ」


 デュノワールはボロボロと涙をこぼすマリアンヌを見つめる。


 悔しくて、惨めで、寂しい。そんな負の感情に支配された彼女を見ることが辛かった。


「お前、ここから逃げたら自由に生きろ」


 そして泣き崩れるマリアンヌを抱き上げ、デュノワールは駆け出す。


「世界は広い!あの家だけがお前の世界じゃない!俺だってそうだった!ゴキブリみてぇにこき使われる人生から、這い上がれるんだって…自分の力で未来は切り開けるってことを知った!」


「無理だ…あたしには……何も残ってないんだよ……!」


「んなことねぇ!」


「無いんだよ!空っぽなんだよ!この16年、あたしが積み上げて来たものは全部無駄だったんだ!笑えよ、笑ってくれよ!あんたのふざけた態度でさ!!」


「違うだろ!そうじゃねぇだろ!?お前がこれまでやって来たことは1つも無駄なんかじゃ……」



「そこまでだ、デュノワール!」



 その時、1つの声が響き渡る。


「く…っそ……!?」


 見ると、そこには眼鏡をかけた男…義勇団のリーダー、フォルスが立っていた。


「全く、君という男は本当に馬鹿なヤツだよ」


「はん。馬鹿はてめぇだフォルス。俺達の…義勇団の存在意義を忘れたか!?」


 デュノワールは呆れたようにため息をつくフォルスを睨みつける。


「俺達は、虐げられる奴らを救う為に戦う義勇団だ!何の罪もない女を出汁に金を巻き上げようなんざ、悪党そのものじゃねぇか!そんな悪行に誰もついて来るはずが……」



「あるんだよ。デュノワール」



 フォルスがパチンと指を鳴らす。すると、アジトだった周りの景色がグニャリと曲がり、そこはアジトの外に姿を変えた。


「なっ!?」


 そして、そのデュノワールとマリアンヌを取り囲むように義勇団の皆が武器を構えている。


「お、お前ら……一体どういうつもりだ!?」


 敵と成り果てた同志達にデュノワールは困惑した声を上げる。


「その娘を返すんだデュノワール」


「断る!女1人の為に…ここまでするなんてお前らマリアンヌをどうするつもりだ!?」


 1人の女にここまでするなんてただごとではない。デュノワールはフォルスの真意を問いつめる。


 フォルスはやれやれと言った様子でため息をつき、そして淡々とその問いに答えた。



「その娘は、奴隷として売り飛ばす」



「……は?」


「……え?」


 デュノワールとマリアンヌは言葉を失う。


 マリアンヌを、奴隷として売り飛ばす……?


「行商の中心地、サルヴァンという街がある。そこでは今盛んに奴隷売買のやり取りが行われているのだ。その娘はまごう事なきシルフラン家の娘、正真正銘の貴族。それだけでも高音がつくというのに稀な力の持ち主ときたものだ!破格の値がつく!」


 嬉々としてフォルスは語る。だが、デュノワールの目にはそのかつてのリーダーがひどく醜悪な悪魔のように映った。


「それだけじゃあない!あのシルフラン家のクレア殿はこの任務が成功した暁には僕達を貴族の一員として迎えると言っている!こんなチャンス、逃す手などないだろう!?僕が……僕達が貴族の仲間だぞ!?これまでやって来たことがようやく報われる!神は僕らを見放さなかったんだ!!ふははははははは!!!」



「っざけんなよ!?ゴキブリ野郎がぁ!!」



 そんなフォルスにデュノワールは弾かれたように叫ぶ。


「なんで元奴隷の俺達があいつらと同じようなことをしなきゃならねぇんだよクソッタレ!!頭がイカれちまったのかよ!えぇ!?フォルス!!」


「だからお前は馬鹿なんだ、デュノワール!」


 そんなデュノワールをフォルスは罵る。


「気づいただろう?この義勇団で戦って来て、この世の何が変わった?どれだけ悪を打ち倒そうと、その奥からまた新たな悪の芽が咲く。無駄なんだよ、正義のために戦うなんてことはな。だったら僕達は虐げられる側から虐げる側になればいい。この世界に救いなんかない!成り上がるしかないんだ、例えどんな手を使っても!悪魔に心を売ってでもだ!」


 そう言ってフォルスはデュノワールに手を差し出す。


「さぁ、今ならまだ許してやる。改心しろデュノワール。皆お前を待っているぞ」


 その光景を、義勇団の仲間達も見守る。


 そうか、つまりここにいる他の義勇団は皆フォルスの意見に賛同したということか。



「……戻りなさいな、デュノワール」



 デュノワールの腕の中で、マリアンヌはそっと告げる。


「あなたの居場所はここではありません。あそこの中にあるのでしょう?今ならまだ間に合いますわ」


 あたしだって、あれだけ嫌いなシルフラン家から離れることができなかった。きったデュノワールだって同じはず。例え志がずれたとしても、捨てることなんてできるはずがない。


 人は、独りでは生きていけないのだから。


 きっと、彼はあそこに戻るべきだ。


「あなた達が成り上がるための手段として私が必要なのであれば、存分に私をお使いなさい。そうすれば、何の価値もなかった私の人生にも何か意味があったのではないかと……そう思える気がします」


 奴隷になれば、マリアンヌはきっと人としての尊厳を踏みにじられ、見るも無残な余生を過ごすことになるだろう。


 だが、もういい。


 疲れた。


 家族に……実の母に捨てられ、16年の歳月を無駄にして来た彼女にもう立ち上がる意思なんてなかった。


 せめて、この命が誰かの人生の礎になるのであればこんな私にも生まれてきた意味があったのだと、そう思えるような気がした。


 だから、もうここで終わらせてほしい。



「……おいマリアンヌ。約束しろ」



 するとおもむろにデュノワールがそんなことを告げる。


「はい?何でしょう?」


 マリアンヌは脱力し、デュノワールに身を任せる。もう何とでもしてくれ、何でもいいから早く……。



「もし、俺がお前をここから救い出すことができたら……あの家に縛られずに、自由に生きるってな」



「……え?」


 デュノワールの言葉にマリアンヌの思考が一瞬固まった、次の瞬間。



「【ミョルニル】!!」



 デュノワールは全てを振り切ったように戦鎚を投合した。

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