【マリアンヌの過去】脱出
「あぁ〜……くっそ〜……」
マリアンヌは牢の中でぐったりとしながら横たわっていた。
魔封石の力は思ったよりも堪えるものがある。マナだけではなく彼女の活力までもが吸い取られ、身体を動かすのも億劫だった。
「どーしたもんかなぁ」
今はできることがない、と動かなかったことが災いした。このままでは精も魂も尽き果てて身動き1つ取れなくなってしまう。
そうなる前にできることはなんだ?
「……」
じ、自分の身体を餌に見張りを懐柔するとか ……?
「無理無理無理無理!あたしには無理!!」
ブンブンと首を横に振りながら顔を赤くする。だって、ロクに男と関わったことすらないあたしに、そんなことできるわけがない!
そんな床に寝転んでのたうち回るようなマリアンヌの様子を、見張りの男は複雑な顔で監視することしかできない。
「あのゴキブリ野郎が入ってきた時に、カギ奪っとけばよかった……」
そう言ってマリアンヌは1人ため息をつく。あの時は自分が抑えてきた感情の波が抑えきれず、そこまで思考が巡らなかった。
あの時が生まれてこの方自分を律してきたマリアンヌにとって初めて人前で感情を吐露した瞬間だった。
誠に不本意ではあるが……。
そんなことを考えていると、あの耳障りな声が牢の中に響く。
「いよっ、マリアンヌ!」
「……」
虫でもみるような目で鉄格子の向こうの男を睨む。来やがったな?このゴキブリめ……。
相変わらず軽い調子でデュノワールは牢の中を覗き込んで話しかけてくる。
「いやぁ、暇だったからよ。すこーし俺とランデブーと行かねーか?」
「何をふざけたことを……捕まってる私の身でそんなことできるわけが無いでしょう」
ふざけたことを抜かすデュノワールにマリアンヌはため息をつく。
「冗談は頭から足先だけにしてくださいな」
「それって全部ってことだよなぁ!?」
鉄格子をガチャガチャと言わせながらデュノワールは文句を返す。
「その通りです!それにそもそもそんなことをして見張りの者が許すはずなど……」
そこまで口にした所でマリアンヌは1つの違和感に気がついた。
……見張りは?
慌てて牢の外に目をやると、そこには真っ黒になった見張りが転がっていた。
「……出るぞ、シルフラン・マリアンヌ。今からお前をここから逃がす」
そう言ってデュノワールは牢の扉を引きちぎり、困惑するマリアンヌの腕を取った。