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【マリアンヌの過去】ラティシア奔走

 最初に異変に気がついたのは、ラティシアだった。


「マリアンヌはどうしました?朝から一度も顔を見ていないのですが……」


 朝食を食べたラティシアはそばの使用人に尋ねる。いつもならあの元気に赤い髪を揺らして来るはずのマリアンヌの姿がない。


「そ、それは……」


 言いにくそうに眉をひそめる使用人にラティシアは違和感を覚える。


「言いなさい。何があったのです?」


「い、いえ。特に何も……」


 そう言って何かをごまかそうとする使用人に苛立ちを覚えながらラティシアは魔法を発動させる。


「【清流】に【真実】のマナ、(まこと)を映しなさい【真実の目】」


 清流の眼が使用人を睨む。本当のことを話せ、と暗に示しながら。


「……じ、実は」


 ラティシアに【真実の目】を発動されてしまえば、もう誤魔化すことなんてできない。諦めたように使用人は口を開いた。



「……マリアンヌ様が、誘拐されました」



「何ですって!?」


 ラティシアはガタンと飛び上がりながら叫ぶ。


「何故黙っていたのです!?いや、それだけではありません。何故何もしようとしないのです!?一刻も早くマリアンヌを……」


「それは、私が命じたのです。ラティシア」


 慌てふためくラティシアに1つの声が投げかけられた。


「クレア……お母様」


 振り返るとそこには1枚の紙を握ったクレアの姿があった。


「あれは身代金目的の賊の手によって連れ去られました」


 そう言ってクレアが広げる紙にはマリアンヌを誘拐したこと、そしてその身代金として国家予算レベルの法外な金額が指定されていることが記されている。


「いくらシルフラン家とは言え、私達にはこんな金額到底払えません。だからこの身代金要求は断るつもりです」


「そ、そんな……。でも!マリアンヌを助けるためにできることは……」


「あぁ、もっと分かりやすく言ってあげましょうか?ラティシア」


 そんなラティシアを突き放すようにクレアは続ける。



「あの子を助けるつもりなんて、私にはありません」



「……な」


 冷酷に笑うクレアの姿にラティシアは言葉を失う。



「自己責任です。自分の身も守れなかった愚かなあれなど、シルフラン家に相応しくない。このままいなくなってくれても構いませんわ」



 実の娘に……そんなことを言うのですか?


 『清らかで誠実に』が家訓の人間が聞いて呆れる。そもそもそんなことをしては周りの貴族の目も厳しく……。


「……なるほど。そういう事でしたか」


 そこまで思考を巡らせた所でラティシアは気がついた。


「このマリアンヌの誘拐騒ぎの元凶は…クレアお母様ですわね?」


「ほほほ。何のことか。どうして私がそんなことをしなければならないのです?それに証拠も何も無いでしょう」


 そんなラティシアの言葉を嘲笑うかのようにクレアは告げる。


 過去、お父様がマリアンヌの誕生を知らしめたことで表立ってマリアンヌを消すことはできなかった。


 そこで、クレアお母様は彼女の粗暴な面を世間に晒し、シルフラン家に相応しくないとして追放することを目指していたようだが、それはマリアンヌの絶え間ない努力のおかげで実行されることはなかった。


 だから、マリアンヌは誘拐されたことにしたのだ。このシルフラン家から追い出すために。


 法外な額の身代金を要求されたことを言い訳にすれば、家への非難は最小限に抑えられるだろう。


 後はやる気のないマリアンヌ捜索でもやればそれ以上シルフラン家が被る被害なんてない。


「もう上には話をつけております。彼女の捜索隊も……まあ、一応は出るでしょうがきっと見つかりはしません。あれのことは忘れなさい」


 そう言い残してクレアは姿を消した。


ーーーーーーー


 ラティシアは昨晩マリアンヌが戦闘を繰り広げた彼女の部屋に続く廊下にやってきていた。


 そこには粉々に砕けた天井と壁、そして焼き焦げた絨毯が残されていた。


「……不甲斐ない」


 何故ここまで大きな戦闘が繰り広げられていたのに気づかなかったのか。もしかすると、夕食に何か薬が混ぜられていた?


 確かマリアンヌは夕食をクレアお母様に潰されてしまっていたはず。それもわざとだったということ?


「かなり、用意周到に準備されていたということですか」


 そうなると、ラティシアも下手に動くことなんてできない。


 それにシルフラン家のボス、クレアお母様が上に話をしていると言った。ということは国の勢力もクレアお母様の味方。マリアンヌ救出に動いてくれる保証なんてない。


「どうすれば……」


 ラティシアとて、シルフラン家の人間。表立って動けない。今頼れる存在は国の権力に縛られず、正義感の強いそれ相応の力を持った人間。そんな者……そう簡単に見つかるはずは……。


 そんな彼女にふと、ここ最近のニュースが頭をよぎった。


「いや……そうですわ!」


 一縷の望みをかけて、ラティシアは家を飛び出した。

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