【マリアンヌの過去】屋敷での決闘
「ふん。私はあなたのような下品な男は嫌いです」
「へへ。ほんと、気が強い女だな」
そう言って不敵な笑みを浮かべる金髪の男は戦鎚を構えた。
「倒れてる奴らを連れて下がってろ。あいつは俺が何とかする」
「はっ、はい!」
そう言って生き残っていた3人の男が倒れる男達を連れて逃げ出そうとする。
「逃がすはずが……」
「こっちを見なくていいのかよっ!」
マリアンヌが一瞬目を逸らしたその瞬間。
「っ!?」
目の前に巨大な戦鎚が迫っていた。
ギャリイイイン!!
何とか戦鎚を捉えて受け流す。戦鎚を受けた槍はミシミシと悲鳴をあげ、受け流された戦鎚は屋敷の屋根を粉微塵に破壊した。
戦鎚を……投げた!?
マリアンヌはその行動と破壊力に困惑すると同時にチャンスだと感じる。男は武器を手放して隙だらけだ。
「武器を捨てるなんて、愚策ですわね!」
手ぶらになった男へとマリアンヌは瞬時に距離を詰める。
「【火】と【突撃】のマナ!【火突】!」
マリアンヌの槍に炎が灯り、男の身体を貫かんとする。鋭いマリアンヌの一撃に対して今からじゃマナを溜めても間に合わないはず!
しかし、目の前の男は不敵な笑みを浮かべていた。
「甘いぜ」
ドゴッ!!
「えっ!?」
突如屋敷の壁が爆発を起こし、そしてその砂煙の向こうから巨大な何かが飛来した。
咄嗟に槍を引き戻すも完全に不意をつかれたマリアンヌは防御が間に合わない。
ミシィッ!
「ぐぁぁぁあっ!?」
マリアンヌの身体に文字通りハンマーで殴られたかのような衝撃が走る。
ま…さか?これは、さっきの戦鎚……?
床を無様に転がりながらマリアンヌは思考を巡らせる。
先程の戦鎚が意志を持ったように宙を舞うと、そのまま男の手の中へと舞い戻った。
「さぁて」
戻ってきた戦鎚を受け止めながら男は目の前の少女に目を落とす。
「女を愛でるのは好きだけどよ、いたぶる趣味はねぇんだ。ここで大人しく投降してくれね?この屋敷でかくまわれていい蜜も沢山吸ったんだろ?だったらもう充分じゃねぇか」
甘い蜜を……吸った?この男は何を言っているんだ?
男の言葉の意味が分からないマリアンヌは衝撃で痛む身体を持ち上げながらフツフツと怒りが込み上げてくる。
「黙れ…私の気も……知らねぇで」
ギリリと歯を食いしばりながら目の前の男を射抜くように睨みつける。
「あたしが……どれだけの想いで生きてるかなんて……お前なんかに分かるかよ……!!」
そのマリアンヌの姿に男は面を食らったような顔をしていた。
「ふざけやがって…上等だ……!やってやるよ……!今までの苛立ちも全部込めておめぇをぶっ飛ばしてやる!!」
「ど、どういうことだ……?」
困惑する男をよそにマリアンヌは立ち上がり、マナを溜める。
「【火】に【虎】のマナ!【猛虎】!」
身体から溢れたマナが槍に収束し、虎の顎を生み出す。
「くたばれぇぇええ!!」
そして咆哮と共に炎あふれる槍を振りかぶった。
「ちぃっ。【雷】のマナ!【雷鎚】!」
男の戦鎚に雷が宿りマリアンヌを迎え撃つ。そして。
ギイン!ガイン!ギャリイン!
男の戦鎚とマリアンヌの槍が激しくしのぎを削る。
「な、なぁっ。お前って……うおぉ!?」
「話してる余裕なんかあんのかよ!オラオラオラァッ!」
縦振は戦鎚に受け止められ、横薙ぎに切り替える。男は大きく飛びのいて回避するので鋭い突きで追い討ちをかける。
「っ!」
男は戦鎚の柄で攻撃を逸らすがその横腹を軽く抉る。さらに攻め立てるように連続で槍を突き出して男を追い詰める。
だが、男は器用に身体を捻ったり、戦鎚で受け止めて致命傷を避けてくる。
「いい加減にしろよこのクソ野郎が!」
「へっ。俺のしぶとさはゴキブリ並みだぜ!?そう簡単にやられるかよっ」
「よくそんなこと誇らしげに言えんなぁ!!」
マリアンヌはしぶとい男に苛立ちを覚えながらも炎の槍にマナを込める。
「【突撃】に【虎】のマナ!敵を食い破る力となれ!【貫徹猛虎】!」
槍を勢いよく突き出すと槍に纏われていた炎の虎が飛び出し、男に食らいつかんと顎を開く。
「よく分からんが…お前にも事情がありそーだな」
男はマナを大きく溜めると迫る炎虎を睨む。
「でもな、俺も今は負けられねえ!【雷】に【戦鎚】のマナ!吹き飛べ!【ミョルニル】!!」
ゴッ!!
男は雷で包まれた戦鎚を投合する。
破裂音を鳴らす戦鎚は激しく高速回転し、その様相はまるで円盤のように見えた。
ドパァァァァアン!!!!
2人の魔法がぶつかり合う。
お互いの力はほぼ互角。どちらも一歩も譲らなかった。
「ぐっ……ぬぬぬぬぬ!!」
「う……がぁぁあ!!」
屋敷の窓ガラスは衝撃で次々と割れていき、弾けた魔法の残滓が絨毯や壁を焼き焦がす。そしてあたりに焦げ臭い匂いが立ち上った。
なんて力だ!?
ミシミシと悲鳴を上げる槍を握り締めながらマリアンヌは心の中で叫ぶ。
確かに戦鎚は重く、威力が出るものだ。
しかし、それでもここまで重い一撃になるものかと思った。
だって、これまでは槍同士の試合しかしたことがなかったのだから。実践経験なんて、ほとんどなかった。
だから、マリアンヌは考慮していなかったのだ。
ミシィッ
「えっ!?」
自身の槍の、限界値。
自衛用の槍はあくまでも護身用。本格的な戦闘を目的に作られた武器とはその強度が劣っているということを。
そのまま槍はマリアンヌの魔法の出力と、男の強大な戦鎚の一撃に耐えきれずバキリと砕け散ってしまった。
「ぐっ……ああああああああ!!」
武器を失ったマリアンヌはなす術もなく男の戦鎚を受け、地面に倒れ込んだ。
身体は雷で痺れ、言うことを聞かない。
そのまま重いまぶたを閉じながらマリアンヌは意識を失った。




