【マリアンヌの過去】赤い髪の赤ん坊
今から約20年前のことだ。
このシルフラン家に1つの産声が上がった。
「おぎゃああああ!!」
「はぁっ。う、産まれました…よ……?」
彼女を取り上げた助産婦はその姿を見て怪訝な声を上げる。
「はぁっ、はぁっ。な、なんです?何か……問題でも?」
シルフラン家夫人クレアは出産の直後で疲弊しているものの、その不安そうな助産婦の姿にたまらず身体を起こして自身の子どもを確認する。
そして。
「な……な!?どういう事なんです!?これは!?」
そこにいたのは赤い頭髪に赤い瞳をした赤ん坊だった。
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シルフラン家は代々水の力を継承する一族。
シルフラン家の血を引く者は何故か水のマナを持った女性しか生まれてこない。だから父親であるトレントはこのシルフラン家に婿入りしてきた。
そして、一族の髪と瞳は彼女達の力を体現するように皆蒼くなると言う特徴もあった。
そうだと言うのに、ごくごく稀に彼女のような赤い頭髪と赤い瞳を持って生まれてくることがある。
深くは語られないが、理由は過去のシルフラン家の血筋にあるらしい。そして、その存在が忌避されてきたと言うことも。
つまり、産まれた時からマリアンヌはシルフラン家にとって負の存在。望まれずに産まれてきた存在だった。
「産まれなかったこととしましょう」
ベッドに横たわるクレアは外を眺めながら淡々と告げた。まるでそれは家に虫がでてきたから捨てます、というくらいあっさりしたものだった。
トレントその妻の言葉に思わず言葉を失う。
「な、何を言っている!?私達の娘だぞ!?」
「こんな子、私の娘などではありません」
「何故そんなことを言う!?」
シルフラン家に婿入りしたトレントはシルフラン家の複雑な事情にそれほど縛られてはいない。例え髪色や魔法の力が何だろうと大切な娘。こんな可愛い娘を無かったことにしようとする妻の心情が全く理解できない。
「この髪色の子は、将来蛮族のように野蛮な性格になるのです!私達シルフラン家は『清らかで誠実あること』が家訓。そうでなければなりません!それもできない野蛮人が我が娘だなんて……私一生の恥ですわ!」
「そうだと決まった訳では無いだろう!?この子にも教養と作法を教えればきっと……」
「それでも人間の本質は変わりません!何より私の感情が許しません!」
結局こうしてトレントが何と言おうとクレアの心は変わらなかった。
そんな両親の争いを、幼い日のラティシアは黙ってみていることしかできなかった。