【マリアンヌのお見合い】シルフラン家四女マリアンヌ
挨拶回りがひと段落ついた所でようやく皆が席についてマリアンヌの到着を待つ。
「結構時間かかるんだな」
ソウルはカチカチと時計の音を聞きながら呟く。
「そうですわね。きっと女性が主役ですもの。入念に準備をしているのだと思います。けれどもうこちらに向かっているようですわ」
アルはそう言って耳を澄ましているのか目を瞑りながら告げる。
ソウルは改めて部屋の状況を確認する。
右手にはシルフラン家の関係者。マリアンヌを除いた当主トレントと夫人クレア。そしてソウル達を案内してくれたカトリーヌと1番上の姉であるミレイユ。
そして最後は聖剣騎士団の部屋に現れたラティシアだ。
皆蒼い瞳と蒼髪。そして優美な服で身を包み、マリアンヌの到着を待っている。
あと、全員並んでみて分かったのだがシルフラン家の女性陣の頭には皆彼女達の髪と同じ青いカチューシャがあった。
マリアンヌさんはあれをしている所を見たことがないが、いったいどう言うことなのだろう?
対するフローレンス家は最近勢いがあると聞いていたが、ここにいる者はラザナスを始めその部下や関係者も皆若い。本当にここ最近で成り上がってきた者達なのだろう。
「それでは、此度は我が娘マリアンヌのお見合いにお越しいただき心より感謝を申し上げる」
ソウルが思考にふけっているとトレントが立ち上がって挨拶を始める。
いよいよだ。
「それではこれよりシルフラン家四女マリアンヌとフローレンス家当主ラザナス殿のお見合いを始める。マリアンヌ、ここへ」
そしてガチャリと音を立てて扉が開かれる。
「……わぁ」
「綺麗ですわ……」
ソウルの横の2人が感嘆の声を上げる。それは当然だろう。
だって、そこに立つマリアンヌがとても美しいのだから。
朱色のドレスに綺麗な化粧を施された彼女の美しさはまるで凛とした女神のようだと思った。
そして入室したマリアンヌはそっとラザナスの方に目を向け、口を開いた。
「ようこそお越しくださいました。フローレンス家当主、フローレンス・ラザナス様」
……へ?
そう言ってマリアンヌはまるで上品なお嬢様のようにドレスの裾をつまみ、お辞儀をする。
「初にお目にかかりますわ。私シルフラン家四女、シルフラン・マリアンヌですわ。此度は私の事をお見初め頂いたこと、誠に嬉しゅうございます」
あれは……誰だ?
いや、確かに彼女はマリアンヌだ。マリアンヌなのだが……ソウルの知っている粗暴で男勝りなあのマリアンヌではない。
この異常事態にソウルは横目でシーナとアルに目を配る。
彼女達も目の前の光景が信じられないらしい。アルは明らかに目が泳いでいるし、シーナは固まった石像のようにピクリとも動かない。
「初めまして、マリアンヌ嬢。私の方こそ我が誘いをお受け頂き、誠に感謝申し上げます」
そう言ってラザナスはマリアンヌの前にひざまづくとマリアンヌの手の甲にそっとキスをする。
「っ!」
同時にマリアンヌの手がピクンと震えた。
マリアンヌのことをよく知るソウル達だから分かる。あれは彼女の拒否反応だろう。
よかった。あれはちゃんとマリアンヌさんだ、とその光景にソウルは謎の安心感を感じた。
「どうかなさいましたか?」
すると、ラザナスはそんなマリアンヌに優しく問いかける。
「いぇ……。私、殿方との触れ合いに慣れておりませんので少し恥ずかしくなってしまったのですわ」
マリアンヌは可愛らしくそんなことを告げる。
嘘つけぇ!?
普段デュノワールさんとの(一方的な)殴り合いで触れ合いまくってんだろ!?
ダメだ。普段のマリアンヌを見ているソウルからすれば今のマリアンヌはツッコミどころしかない。もはや笑いが込み上げてくる。
ソウルは猫をかぶるマリアンヌの姿に、必死に笑いを押し殺しながら視線を落とす。もう…直視できない。
どうやら隣の2人も同じらしく、笑いをこらえてプルプルと肩が震えているのがわかる。
頑張れ俺達。笑ったら後で殺されるぞ。
「そ、それでは参りましょう」
そんなソウル達の様子に気がついているマリアンヌは眉を恥ずかしさでピクピクさせながら席につくのだった。




