ヨーゼフ
「それでは、これからの予定を説明する!」
一通りの割り振りを終えたカスパルは再び説明を始める。
「これから1週間、学者の皆様には遺跡の調査に当たってもらう!そして君たちはそれに付いて護衛する!以上だ!」
うんうんなるほど。つまり遺跡の調査をするエレナの後をついて回ればいいってことか。
って、待て。説明が簡単すぎやしないか?
「そんじゃ、早速行くぞ。お前ら」
エレナはずかずかと洞窟の中へ入ろうとする。おい、お前もそれでいいのか!?
「まぁ、当人たちはあれでいいみたいだしいいんじゃない?」
「そ、そんなもんかねぇ...」
ソウルはため息をつきながらエレナに続く。
そしてエレナが洞窟の入り口についたその時だった。
「ぐえっ!?」
エレナを押しのけて、眼鏡をかけたいかにも考古学者といった男が洞窟に入ろうとする。
「おやおや。これはエレナちゃんではありませんか」
「て、てめぇ、ヨーゼフ」
エレナは膝をつきながら男を睨む。
「ここはお嬢さんが来る場所ではありませんよ。由緒正しき考古学者のみが入ることを許される遺跡です。お嬢さんはお家で絵本とお人形で遊んでおりなさい」
ヨーゼフと呼ばれた男は眼鏡をクイッとあげながら告げた。
「おい、流石にそれは言い過ぎじゃねぇか!」
ソウルはエレナの前に出てヨーゼフを睨む。
「おや?見習い騎士ごときがこの私に逆らうのですか?」
ヨーゼフはソウルを見下す。
「この歳でもしっかり考古学者の肩書きがあるんだろ!?だったらあんたにそんなこと言われる筋合いはないはずだ!」
ソウルはヨーゼフのあからさまに上から目線な態度に苛立ちを隠せない。
「ソウル、ヨーゼフは大きな名家の出だ。目をつけられると面倒なことになる」
レイはそんなソウルに耳打ちする。
「そんなもん、知るか!納得いかねぇよ、こんな仕打ち!」
しかしソウルは制止を振り切ってヨーゼフに食ってかかる。
その時。
「【地】と【拳】のマナ.......【鉄拳】!」
ドゴォッ
「がっ!?」
ソウルの鳩尾に拳が突き刺さる。
「おっとぉ、悪ぃなぁ。ヨーゼフ様はおれの護衛対象なので、近づく輩は排除しないと行けなくてねぇ」
ヨーゼフの脇からリーゼント頭の見習い騎士が現れソウルに拳を叩き込んできたのだ。
それも、魔法の力を乗せた一撃をだ。同じ騎士同士なのにこんな仕打ちをするこの男の意図がソウルには理解できない。
「よくやったマイケル」
ヨーゼフはそれを見て満足そうに頷くと、もう1人の見習い騎士から杖を受け取った。
「貴様、愚民ごときが私に意見するなど.......おこがましいな」
そう言ってヨーゼフはソウルの頭を踏みつける。
「これは躾が必要だな!」
そしてソウルに杖を振り下ろそうとした。
バシィッ
すると白く細い腕が杖を受け止める。
「な.......!?」
シーナだった。
「.......」
シーナは今まで見たことの無いほどの殺気を放ちながらヨーゼフを睨んでいる。
「.......ひっ、この、化け物め!」
「ほ、ほら。行きましょうヨーゼフ様」
ヨーゼフ一行はシーナの威圧に押され、逃げるように洞窟の中へと消えていった。
「し...シーナ.......」
ソウルはシーナを見上げる。
シーナはこちらを一瞥すると、すっと目を逸らしてどこかへと歩き去っていった。