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【ウィルとの思い出】幼き日の誓い

「この物語おもしれーな」


 ここ数日ソウルとウィルは2人で一緒に本を読んで過ごすようになり、食事や入浴だけでなく、暇な時間も2人並んで過ごすことが増えた。


 ソウルは馬鹿だが頭は悪くないらしい。しばらく本を読み聞かせていると徐々に自分でも文字を理解できるようになってきたようで、今では2人並んで同じ本を読んだり別々の本を読んだりしている。


「まぁ、自分で読めるようになったならいいか」


 そう呟きながらウィルはまた本に目を落とす。


 特に邪魔される訳でもないのでウィルもソウルを放ったらかしにしていた。


「なーウィル。お前はどの話が1番好きなんだ?」


 なんて思っているといきなりソウルがウィルに質問を投げかけてくる。


「別に、何だっていいだろ?」


 敢えてつけ離すようにウィルはそっけない態度で答えた。


 しかし、そんなことを意に返さずにソウルはまた1人で喋りだす。


「俺はあれだな!最初に見せてもらった『光と闇の騎士』が1番好きだ!」


「っ。」


 ウィルはソウルの言葉に少し驚いた。


 自分と、同じ。


 そんなウィルのことをつゆ知らず、ソウルは本にかじりつきながら告げる。


「俺、将来騎士になりたいんだよ!みんなを守ってやれるかっこいい騎士に!この2人ほんとかっこいいよなぁ!何処にいるんだろ……会ってみてーよ!」


「いないよ、だって物語なんだから」


 動揺をかき消すようにウィルはまた本に目を落として呟く。


「いや!でも、世界は広いしどっかにいるかもしれねーじゃんか」


 それでもソウルはそんな現実味のないことを楽しそうに語る。その姿にウィルはやっぱり馬鹿なやつだなぁと呆れてしまう。


「いないさ、だから物語なんだよ。こんな都合よく物事を解決できるわけない。現実を見なよ」


 そう言ってソウルを諭す。


「う〜ん……そっか、いないのかぁ」


「そうそう。だから僕らはこうやって……」



「だったら、俺達がなろう!」



「は?」


 ソウルの予想外の言葉にウィルは目を丸くしてしまう。


 俺達がなる?え、僕と君?


「ウィルは頭がいいから『シャイニング』!ってことは俺が『ダークネス』だな!」


 ふっふっふ、と得意げに笑うソウルを見てウィルは首を横に振る。


「いやいや、無理だよ」


「なれる」


 無理に決まっているだろうに。それでも隣の馬鹿は全然折れる様子がない。


 あー、そうかい。勝手にやってくれ、とウィルはため息をつきながら本を閉じた。


「分かった分かった。じゃあ君は目指したらいいよ。少なくとも僕には無理だから」


「何で?」


 そんなウィルにソウルは即座に問い返してくる。


「空っぽだからさ」


 そうだ。こんな英雄になれる人間なんて、強い心と意志がいるのだろう。


 僕にはどちらもない。


 特に、強い心なんてない。だって、僕の心は常に空っぽなんだから。


「空っぽならなんでなれねぇんだ?」


 ソウルは心底不思議そうにウィルに問い返す。いや、分かれよ。本当に馬鹿だなぁ。


「彼らのような熱い思いも、貫きたい意志もないからだよ。英雄になるにはきっと強い意志がいる。僕にはそんなもの生まれつきないから……」




「空っぽなら、これからいくらでも熱い気持ちをつめることができるってことだろ?」




「!?」


 ソウルの一言がウィルに突き刺さる。



 これから……?



 ウィルの考えたこともなかった考えが、彼のなかったと思っていた心を揺さぶる。



「ウィルの心が空っぽっていうなら、一緒にみんなを守れる騎士になるって夢をたくさん詰めればいいじゃんか!お前が無理だって言うんだったら、俺が引っ張ってやるよ!」


「そ、そんなの何の根拠もない話だろ?仮に僕が頑張ったとしてもなれるって決まったわけじゃ.......」


「そんなもん、やってみなきゃ分かんねーだろ!俺とウィルならなれる!」


 どこからそんな自信が湧いてくるんだ……ついこの間まで文字すら読めなかった馬鹿なくせに。


 本当に、現実が分からなくてどうしようもない奴なんだ、と思った。そうだというのに。



 どうして彼の言葉はここまで力強いんだ。



「君は……不思議だね」


「不思議?」


「人の心の核心をついてくるというか……君なら本当にやってくれそうだというか……ほんと、不思議だよ」


「へっへっへ。そんなことねーよ、普通だ」


「それ、僕が君に言ったこと根に持ってるな?」


「バレたか?へへへっ」


 そう言ってソウルは、にっと力強く笑う。


 その姿はウィルの目にはとても眩しく、そして心強く感じた。



「あぁ……そうか」



 少しだけ、分かったような気がする。



 何故、『シャイニング』が『ダークネス』を信頼し、一緒に戦っているのか。



 『ダークネス』と一緒にいる彼もきっと、こんな気持ちなんだろう。



「……しょうがないなぁ」


 そう言ってウィルは笑う。生まれて初めて、彼の心に新しい何かが生まれた瞬間だった。


「君は馬鹿だからすぐ死んじゃうだろうね」


「死なねーし!ピンピンしてるし!」


 ウィルのあまりの言い草にソウルはギャーギャーと反論する。



「だから、僕が君をサポートするよ」



 そう言ってウィルはやれやれと肩をすくめてみせる。


「君が『ダークネス』で、僕が『シャイニング』。なってやろうじゃんか、本物の2人に負けないような最高のコンビにさ」


 そんなウィルの笑顔を見てソウルも笑う。


「あぁ!なってやろう!最高のコンビに!!」


 そう言って2人は腕を組む。


 この瞬間、ウィルの世界が始まった。

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