【ジャンヌ逃避行】駆け引き
「ひっひっひ」
ケディはニヤリと笑う。
後ろでふらふらと立ち上がろうとする黒髪のガキ。
聖女の全ての尊厳を奪ってやる。
そのためには、やはり聖女の守ろうとするあのガキは殺さなくてはならない。
「ソフィアから...離れろぉぉおおおお!!!」
「なっ!?」
ジャンヌの背後からソウルの咆哮が聞こえる。
止めるんだ!もう立たなくていい!これ以上、私のために傷つかないでくれ!
「ダメだソウル!貴様もやめろ!ソウルに手を出すな!!」
「向こうが向かってくるんだ仕方ねぇよなぁ!!」
ジャンヌの嘆願をケディは切って落とす。さぁ、どこを飛ばしてやろうか?腕か、足か。
あいつをダシに、もっと聖女を痛ぶる。その為にすぐには殺しはしない。動きを止めるだけでいい。
ボロボロのソウルは血を振りまききながら鬼の形相で突っ込んでくる。
「うぐっ」
だが、ケディから3m程のところでソウルの足がもつれた。
「いひ.......!」
足だ。
見ると、ソウルの右足はぐらついているようだ。
あのかろうじて動いている足を完全に止めてさえしまえば後はどうとでもなる。芋虫みたいに這い回るあのガキを痛めつけながら聖女を弄んでやろう。
「【棒風】!」
風の渦が一直線にソウルの右足に迫る。そしてそのまま足を貫かんとした。
その瞬間。
ダンッ!
その右足でソウルは跳躍した。
「は?」
ケディはまさかの事態に一瞬思考が止まる。
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ソウルはそのまま一直線に突撃。ケディを貫くように刃を押し出した。
駆け引きだ。
奴はきっとソウルをネタにジャンヌに揺りをかけてくる。なら奴はソウルの急所ではなくソウルの動きを止めるために身体の何処かを狙ってくるだろう。
あいつの魔法は貫通力に特化した反面範囲は狭い。狙い撃ちにはもってこいのはず。だが、逆のことを言えば一度躱してしまえば飛び入る隙があるということになる。
なら、その一撃をどう躱す?あの速さと正確さを出し抜くためにどうすればいい?
奴の狙いを誘導してやればいい。
あえてソウルの右足が傷ついているように振る舞うんだ。そうすれば奴はソウルの右足を狙うはず。その瞬間を狙う。
そしてソウルのその策は成功した!
追い詰められたソウルは逆にケディを追い詰め、その刃を振るう。
「ぐっ、ニール!」
「させないんだなぁ!」
そんなケディとソウルの間にニールが飛び出す。その身は先程と同じように粘液を纏い、ソウルの剣など通さない。
「ダメだソウル!下がれ!」
ジャンヌの悲鳴にも似た声が聞こえる。先ほどと同じだ。ニールに剣を止められてしまう!
だが、ソウルは引かない。
ここしかない。こいつを倒すチャンスは。ここを逃せばまた距離を取られて狙い撃たれて終わる!
「ふぅぅぅぅっ!」
ソウルは大きく息を吸い込むと、ズン、と大きく足を踏み込む。突き出した刃を引き戻し、両手で剣を握り直すと全身を大きく伸ばすように上段の構えを取った。
「くらぇ!【陥落】!!」
ソウルは全身の筋肉をフル導入して鉄壁の防御を誇るニールへと剣を振り下ろした。




