決着
「…………」
ソウルは崩れ去ったイグだった物を眺める。
どういう事なのか、謎が謎を呼ぶばかりだ。
イグの言ったことの意味はなんだ?それは【魂縛の鎖】を通して感じたイグの深すぎる悲しみと、何か関係があるのだろうか?
ようやく、召喚魔法のことが分かってきたと思ったのに、またどこかつけ離されたような感情になりながらソウルはため息をつく。
「ソウル様ー!!!」
グキィッ
「どふぅ!?」
すると、背後からマコがものすごい勢いでソウルに抱きついてきた。
ヤベェ、背骨がグキって……グキって言った!?
「そ、そっか……お前がレイ達を呼びに行ってくれたんだな?ありがとう、お前のおかげだよマコ」
ソウルは痛みを堪えながらマコの頭を優しく撫でた。マコがいなければ、きっとソウルもギドもここにいなかっただろう。
「え、えへへ……」
頭を撫でられたマコは心底嬉しそうな顔でソウルを見上げている。
何というか、こう……可愛らしいな。
「ちょ……こら、離れなさいですわ!ソウルは疲れておりますのよ!?」
「えぇ〜……?」
「うらやまし……じゃなくて、ソウルをゆっくりさせてあげて!」
腑抜けた顔のマコをアルとシーナが引き離そうとする。
そんな3人を見てソウルは苦笑いするしかない。
「べ、別に俺は構わねぇよ?」
「「そういう問題じゃない(ありません)」」
おぉ、2人の息がぴったりだぁ。
「あはは。相変わらずだなぁソウルは」
そう言ってレイが呆れつつもどこかホッとしたようにソウルの側まで歩いてくる。
「これ……毒吐かれるのは俺なのか?」
相変わらずって……俺普段からこんなことしてたっけ?
「まぁね。それよりほんと、無事でよかったよ」
「……あぁ。すまねぇな、レイ」
みんなが賑やかにしているのを見て、ソウルはほっと脱力した。
よかった。みんな無事で。
「みんな、ごめん!!」
そしてソウルは声を大にして頭を下げる。
「俺のせいで……みんなを巻き込んじまった!もう少しで取り返しのつかない事になるところだった!!」
そうだ。結果はイグを撃ち倒し、みんな無事に生還することができた。
だが、みんな瀕死の重傷を負わせてしまったことに違いはない。それもソウルの個人的な理由に巻き込んで。
「よせや、ソウル」
すると、それを見たギドがこちらに歩み寄りながら語りかけてくる。
「巻き込んじまったのは俺だ。俺がシドを助けるためにお前を煽ったんだ。だからおめぇの責任じゃねぇよ、全部俺のせいだ」
そう言ってギドは膝を突き、そして。
「悪かった」
土下座をした。
全て、巻き込んでしまった。俺の個人的な都合に、あろうことかソウルの悩みを利用する形で。
決して許されることじゃあない。どう罵られても構わない。それだけのことをしてしまったのだ。
「ギド、お前……」
あの傍若無人に振る舞うことが当たり前のギドが、土下座なんかするなんて……。これまでの彼を見る限り、ソウルには信じられないことだ。
「……ぷっ」
そのありえない光景にロッソはプルプルと震え出す。
そして次の瞬間。
「ぷははははははははは!!!!」
王の間にロッソとモニカの笑い声が響いた。
「……あ?」
予想外の事態にギドは目を点にする。
「あ、あのギドが……あの自分勝手なギドが謝ったぞ!?」
「す……すみません。こんなしゅんとしたギド、初めてで……初めてで!」
特にギドを当初から知る2人にはより一層面白く見えるらしく、ロッソはおろかモニカまでもが腹を抱えて笑い転げていた。
「なっ……ななななな!?」
ギドは顔を真っ赤にしながら狼狽する。そんなあられもないギドの姿にソウルの頬も緩む。
「あはは。ギド、謝罪の言葉知ってたんだね」
レイもここぞとばかりに横からケラケラと笑いながら告げる。
「ギド、お前かっこ悪いなぁ」
「なっ!?ソウルてめぇ!?せっかく庇ってやったってのに」
「ギドさん……可愛らしいですわね」
「アルまで何抜かしてやがる!?」
「……………………くす」
「こっそり笑ってんじゃねぇよシーナァ!!」
あーくそ!マジになってた俺がバカみてぇじゃねぇかクソッタレ!!
「ははは、よかったねギド」
「どこがいいんだシド!?」
シドはそんなギドに笑いかけてくる。明らかに馬鹿にされてるじゃねぇか!
「素敵な仲間に、出会えたみたいじゃないか」
「そ、そんないいもんじゃねぇっつうの!!オラァテメェらぁ!覚悟はできてんだろぉなぁ!!」
「やべぇ!ギドがキレたぞ!!」
「逃げろぉ!」
そう言ってギドは笑い転げる一同へ掴みかかりに行く。
それを眺めながらシドはつぶやいた。
「ありがとう、みんな。ギドに出会ってくれて」
兄は嬉しくもどこか寂しい気持ちに駆られる。
ずっとシドの後をついてくるだけだったギドが、こうして先を歩き、そして仲間と力強く生きている。シドがいない間に、立派になった弟を兄は誇らしく思った。
ーーーーーーー
「ったく……こんな戦いを繰り広げてよくあれだけ笑っていられるわ」
そう言ってオデットは賑やかな輪から離れて呟く。
「お前も混じってきたらどうだ?」
「冗談。混じるわけないじゃん、ライくんが行っといでよ」
戦斧をかつぎながらライもオデットのそばに歩いてくる。
「……変わんねぇな。あいつ」
「……ほんと。あいつといると嫌でも賑やかになる。うるさいったらありゃしないわ」
そして2人はかつての孤児院の仲間。ソウルの事を眺めた。
「……ちゃんと話をするぞ、オデット」
「………………」
ライの言葉にオデットは黙り込んでしまう。
「あいつには、伝えなきゃならねぇ事がたくさんあるだろうからよ」
「……うん。分かってる」
「あいつは自分の力のことに向き合った。今度は俺達の番だ。俺達もあいつに向き合うぞ」
そうだ、あの時本当に伝えなくてはいけなかったことを、伝えられていない。
本当は……私がソウルに伝えないといけなかったこと。
「うん……。一緒に伝えようね、ライくん」
オデットは小さく頷きながらこぼすように答えた。




