【理解できないよ】
「ソウル。構えてね」
シーナは【魂縛の鎖】を回避しながらソウルに呼びかける。
「あぁ。頼むぜシーナ」
ソウルとシーナの心がシンクロする。ソウルにはシーナの意図が目を見ただけで理解できた。
そしてソウルは最後のマナをバステオスに送り込む。
「バカがあ!!何をしようと貴様らに勝ち目などない!!」
イグは【魂縛の鎖】を振り回しながら叫ぶ。
いくらマナを溜めようと、その召喚獣は地を蹴ることもできず、ただ落ちていくことしかできない。
もうイグに攻撃を届かせることなんてできない。いや、届かせるわけにはいかない。
空中のバステオスを貫かんとイグはありったけの鎖を放つ。
「【煽ち風】!」
だが、地上から巴の援護射撃が響放たれ、イグの鎖を次々と撃ち落としていく。
「ここまで来て、負けるなんて許さねぇぞソウル!!【パルス・カノン】!!」
ギドは堪らず駆け出して地に転がるワイヤーの破片を拾い上げてイグの鎖を撃ち落とし始める。
「小賢しい!!」
だが、他の奴に構っている暇はない。ここで奴を撃ち倒さねばこちらが負ける。もう一度この召喚獣が跳んだ時、それはきっと自身の敗北する時だとイグは直感していた。
「ぐらぁ!行くぜぇ【紅蓮】!!」
ライはソウルたちに夢中になっている事を見逃さない。隙だらけのイグの腹を戦斧で殴り飛ばす。
「ゴッ!?」
ライのことなど気にも留めていなかったイグは予想外の衝撃にその身を揺るがした。
「これで届くでしょ!?【地】のマナ!【地丘】!!」
オデットが地面に地をつくと地面がせりあがってバステオスの元へと伸びる。それはバスでオスの足場となる。
とどめの一撃を弾き出すための最後の跳躍の足場だ。
まずい!あれを許せば最後の一撃が届く!
それを見たイグは堪らず鎖を方向転換させ、足場を破壊しようとする。だがそこに駆け込むのは小さな兎の獣人。
「させませんわ!」
だが、彼女に残されたマナはもう無い。ナイフを顕現させることだってできるはずがない。手ぶらでも構わない。この身を盾にしてでもこれを死守しなければならない。
「ほら、やりなさいよアル!」
それを見たオデットはアルが駆け上る足場に2本の岩のナイフを形成する。
「.......ふん。ほんと、食えない女ですこと」
「お互い様でしょ?ばーか」
アルは悪態をつきながらもそのナイフを掴み、そして迫る鎖たちを弾き飛ばした。
「さぁ、お行きなさいですわソウル!」
「おぉ!!」
みんなの想いを込めてバステオスはオデットの足場に足をかける。
ミシミシと音を立てて足場は崩れ、そしてバステオスは弾丸のように飛び上がった。
「だが!そんな真っ直ぐに飛び込んでこようが回避など容易いわぁ!!」
そんな方向転換もできない真っ直ぐな一撃なら何とか回避して.......。
イグは身を捩ってバステオスの飛び込んでくる軌道から逸れようとする。
「だから、私がいるの!」
シーナの使命。それはソウルの最後の一撃を奴に食らわせることだ。
【朧村正】にマナを込める。込めるマナは【重撃】のマナ。発現するのは重い一撃を生み出す魔法。
「【布都御魂剣】!!」
【朧村正】にマナが集まり朧村正は紅く光を放つ。
「はぁぁぁぁあ!!!」
ズドンッ!
そしてシーナはイグの頬に重い一撃を叩き込み、イグの首をバステオスの攻撃の軌道上に叩き戻した。
「ぐ...まだだぁ.......!」
イグはその毒牙から最強の毒液を放つ。回避は間に合わない。ならばこれで奴らを先に潰す!
「【射出】」
だが、一番最後尾から放たれた火矢がそれを許さない。濃密な毒の液体を穿ち、バステオスの突破する道を作った。
「行ってくれソウル、みんなの想いを無駄にするな!」
「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「ゴォォォォォォォオ!!!!!」
ソウルとバステオスは共に咆哮する。込めるマナは【炎獅子】に【拳】のマナ。
全てを穿つ炎の拳。
バステオスの拳に燃え上がる炎が灯り、完全にイグを捉える。
「何故...何故貴様はここまで戦える!?何故、貴様達は諦めることを知らないんだ!?」
何度も何度も、奴らの戦意を砕く瞬間はあった。それなのにも関わらず、奴らは何度も何度も立ち上がった。
その力の源は何なのだ!?何が奴らをそこまで奮い立たせるのだ!?
「きっと、奪い支配することしか知らなかったお前には一生理解できないよ」
攻撃の間際、ソウルはそう呟いた。
「【メテオブレイク】!!」
ボッ!!
ついに、バステオスの拳がイグの脳天を貫いた。