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イグとの戦い9【魔獣の進撃】

 イグのせせら笑う声が聞こえる。


 イグの背中から獅子の顔を持ち、悪魔のような翼を持った魔獣の上半身が生え、レイのことを睨んでいた。


「こ、れは……」


 まさかの事態にレイは思考が停止する。完全に奴の視界から外れた。何故バレた?そしてこの魔獣は一体何なんだ?


「あいつ!?イグの野郎に捕まってた魔獣の一体!」


「【パズス】です!!」


 ギドとマコが叫ぶ。確か先程教徒達から抜き取られたはず。まさか、イグに取り込まれていたのか!?


「残り5体の魔獣は我の下僕。こうして我のことを守っているのだ」


「…………!?」


 つまり、イグの体内に取り込まれた魔獣がイグの意識の及ばない所に潜み、イグを守る為に現れたということ。


 イグの視界から逃れることはできても、奴の体内に潜むこの【パズス】から逃れることはできていなかったのだ。


「こ、このっ」


 レイはパズスに掴まれた剣を引き抜こうとするが、剣はピクリとも動かない。


「今【パズス】は我と共にある!故にのマナの源は我……つまりその力も我と同等となっている!」


「ウォッ」


 パズスはそのままレイに向かって翼を広げると、その羽を高速で撃ち出した。


 ズドドドドドッ!


「ぐっ、あああああ!?」


「レイっ!?」


 レイはその身を引き裂かれながら後方へと吹き飛ばされる。


「ちっ、下手こきやがって……!」


 ライは堪らずレイを回収しようと駆け出す。


「貴様もだぞ?」


「んなっ!?」


 すると、今度はイグの身体から3首の地獄の番犬が生え、ライを睨んだ。


「んだぁこいつはぁ!?」


「け、【ケルベロス】!?」


「ガルァ!!」


 そして3つの牙が同時にライに襲いかかる。


「ちく……しょうがぁぁぁあ!!!」


 ライはマナを込める隙もなく戦斧で迫る牙を弾き飛ばす。


 ガキギィン!


 だが、それで弾き返せたのは2つまで。


 まに……あわね……。



「ライくんのバカ!【溶岩】に【大蛇(おろち)】のマナ!」



「なっ!?お前!?」


 ライを庇うようにオデットが飛び込んでくる。


「もう……もう家族を亡くして、たまるもんか!!!【溶岩大蛇ボルカニックサーペント】!!!!」


 オデットが床に手をつけると、触れた地面が真っ赤に染まる。そしてそこから赤黒い溶岩でできた巨大な蛇が飛びだし、迫るケルベロスの首へと喰らい付いた。


 ジュウと、肉が焼き焦げるような音と匂いが辺りに立ちこめる。


「グガァァァァア!?」


 ケルベロスの牙はライの目前で空を切り、ケルベロスの1首は力なくガックリとうなだれた。


「よ、よし!」


 オデットはその瞬間ふっと気が緩む。


「馬鹿野郎!?まだだ!」


「えっ、?」


 ドスン!


 その瞬間、オデットの鳩尾に鈍い衝撃が走る。


「かっはぁ……」


「ふふふ……いいぞ、【イフリート】」


 今度はイグの身体から赤い炎でできた筋肉質の腕が飛び出しオデットに拳を叩き込んでいた。


 炎の身体を持つ精霊。【イフリート】の拳。


 灼熱の体温がオデットの身体を焼き、内臓にハンマーに殴られたかのような鈍痛を与えて彼女の呼吸を奪う。


「確かに力に恵まれたようだが、使い手がまだまだ未熟だな。経験が足りない」


 確かにオデットはその類稀なる才能で魔導学校も飛び級で卒業するという快挙を成し遂げた。


 だが、それは結果として彼女に踏むべく段階と経験を積ませる機会を奪ったとも言える。


 力に頼り、戦術や精神がまだ足りていなかった。


「この!?」


 ライは堪らず目の前の【イフリート】の腕を叩き折ろうと戦斧を振る。


「ピィィィィ!!」


 だが、今度はイフリートの腕からワシの足のようなものが生え、ライの腕を鷲掴みにした。


「今度は【イフリート】の腕から!?」


 デタラメな攻撃の嵐にライは翻弄される。


「そやつらももはや我の体の一部。当然そのような芸当も可能だ」


 恐らくこれは【グリフォン】の足。だが腕を掴まれたところでまだ……。



「グルルル……」



「……そう、易くはねぇよな」



 ライは歯軋りしながら振り返る。


 そこには大口を開ける飛龍がライを見下ろしていた。


「だっ、ダメです!?【ワイバーン】!逃げてください!!」


 マコが堪らず悲鳴を上げる。だが、もう完全に動きを封じられ逃げられない。



「この……クソッタレが」



「バァァァァァァア!!!」



 次の瞬間、【ワイバーン】の口から火炎が放たれライの身体を焼き焦がした。

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