イグとの戦い7【合流】
レイ達は真っ暗な城の中を忍び足で走っていた。
「な、何なんだよここはぁ...何か真っ白な奴らが生き生きと生活してるし.......」
ロッソは肩をブルブルと震わせながらぼやく。
「何気味悪がってんのよ。別に普通に人が生活してるだけでしょーが」
そんな弱腰のロッソにオデットはため息をつく。
「だ、だっておかしいだろ!?こんな森の奥であんな怪しい服の奴らがいるだなんて...それになんて言うか.......」
「確かに...少し気味の悪いものは感じますわ」
アルも少し考えるように告げる。
「まるで...彼らがああしてお互いに傷つかないように逃げながら生活している...という感じですわ」
ビーストレイジとして遺跡の奥底で暮らしてきたアルだからこそ分かる。確かに一見皆明るく生きているように見える。だがあれは本当の意味であれは生き生きしているわけではない。
顔を隠すことで、個人は失われる。全体を回すための歯車の1つとしてしか自分の存在価値を見いだせていないのだろう。
「本当に生き生きと生きるのであれば、あんな白い布など要りません。堂々と自分の顔を晒して自信を持って生きることができるはずです」
かつての自分もそうだった。人のような顔が嫌で隠して生きてきた。だけれど、今は違う。確かにあの父親の事はまだ受け入れられないけれど、ソウルやジャンヌ様のように尊敬に値する立派な人間もたくさんいる事を知った。
だから、今は自身の人間の顔も受け入れ、前を向いて生きていく事ができている。もう私を隠す仮面は必要なくなった。
「ははは。アルも立派になったなぁ」
「う、うるさいですわよ、レイ」
ケラケラと笑うレイの背中をアルはベシベシと叩く。
「っ。待って」
すると、何やら城が大きく揺れる。
「上...の方ですね」
モニカが天井を見上げながら零す。
「うん。まるで何かでっかいものが暴れてるみたいだ.......」
「ま、待ってよ!?それってまさか!?」
ただでさえ血の気が引いているロッソの顔がさらに青くなる。
この巨大な城を揺れ動かすほどの大きさの何か。きっと並みの魔獣じゃないだろう。だとすれば、思い当たる相手は1つしかない。
「.......うん。状況を見るに、『邪龍』かもしれない」
「ひっ、ひぃぃ!?」
ロッソはガクガクと足を震えさせる。
「問題は...どうやってそこに向かうか.......だな」
ライがチッと舌打ちした。
「うん...私の【紫外】でもよく分かんない」
暗いところでもハッキリと目が見えているが、それでもどの道が正しいのかまでは分からない。城の廊下には沢山の痕跡が残されてはいるものの、数が多すぎるため判断の材料にならない。
「待ってくださいですわ」
その時、アルの耳が何やらピンピンと揺れる。
「どうした?」
「.......誰か、来ますわ」
アルの一言に一同は臨戦態勢をとる。
.......タッタッタッタッタッタッ
やがて、アルだけでなく他のメンバーの耳にもその足音が聞こえてきた。真っ直ぐ迷う事なくこちらへと向かってくる。
「.......近い」
レイも細剣を抜き、現れた人影に目を凝らした。
「ハァッ...ハァッ.......ハァッ」
小さくか細い呼吸音と共にその少女は姿を現した。
「きっ、君は!?」
暗闇の向こうから現れた少女を見てロッソは唖然とする。
「知り合いですか?」
モニカがロッソに尋ねた。
「う、うん。街でソウルに声をかけてきた子だ.......!」
白い布を被ってはいたが、その体の特徴とその声。間違いない。あの時の女だ。
「そ、ソウル!?」
そして、少女が担ぐ青年の姿を確認したレイはたまらず駆け寄る。
「あ...あなた...達.......ソウル...様の.......仲間.......ですね.......!」
「あ、あぁ。そうだけど.......君は.......?」
レイはその場に倒れ込む少女からソウルを受け止めて問いかける。
「助けてください!上でギドが戦っています!ただでさえボロボロなんです!長くは持ちません!!」
少女は息も絶え絶えで、叫ぶ様にレイに縋り付いてきた。
「.......罠かもしれないわ」
オデットはそんな少女に警戒の色を緩めない。
「こいつがソウルのバカを連れていった張本人なんでしょ!?それにソウルの様子もおかしいわ!何かしたんでしょ!?」
「〜〜〜っ!」
確かにソウルをかどわかした張本人がこうして助けを求めにくるなど、どう考えても罠にしか見えないだろう。
だが、マコにそれを納得させる術などない。全て自分がやった事が原因なのだから。
「そ、それでも信じてください!私はソウル様に救われました!ソウル様の為なら私は.......」
「そんな事で信じられるわけないでしょう!?見なさいよ!このボロボロの身体を!」
今のソウルはイグに拷問されボロボロだ。そして彼の精神はイグの精神支配によって恐らく崩壊してしまっている。
そんな状況で「信じて」と言ったところで、そんな想いは届くわけがないだろう。
だが、マコも引き下がるわけにはいかない。
自分を救ってくれたソウル様...そしてギドの為に、マコも引けなかった。
「お願いします!話を聞いてください!!どうしても信じられないというのなら、私の四肢をもぎ取ってくれても構いません!!望むのならこの戦いが終わった後、八つ裂きにしてくれても!だから...だから話を聞いて.......!信じて!!」
「分かった。信じるよ」
「はぁ!?」
すると、目の前の金髪の青年はマコに優しく微笑みかけた。
「バカ!?何言ってんのよ!?」
「そ、そうだよ!ソウルがこんな状態にされてるってのに信じられるわけ.......」
「でも、ソウルはこうしてここに帰ってきた。そして彼女も必死の思いでここまで来たってことだけは僕にも分かるよ」
レイはそう言ってマコの足を見る。
マコの履き物はボロボロにちぎれ、もはやほとんど裸足だった。しかもこの硬い城中を走り続けてきたのだろう、所々皮膚が破け、血が滲み出している。
「そ、それは...。でも、敵の言葉を易々と信じるなんて.......」
「でも、きっと事態はそれ程に切迫してるんだと思う。だったらこの迷ってる時間すら勿体ない。ここはソウルをここまで連れてきた彼女を信じるべきだ」
そう言ってレイはマコに向き直る。
「力を、貸してくれないかい?君の名前は?」
「ま...マコです.......ソウル様がつけてくれた.......名前です」
マコはソウルのように暖かい青年に涙を流しながら自身の名を名乗った。
ーーーーーーー
マコはレイ達を王の間へと案内する。
そしてその道中でここまであったことを全て伝えた。
イグがソウルの召喚獣を奪おうとしていた事。その動乱の中でシーナは崖下へと落下し、ソウルとギドが捕らえられた事。
ソウル様が私を守って、そして救ってくれた事。
今、ギドが彼の兄を救う為に戦っている事。その隙に私がこうしてレイ達の元へと駆けつけた事。
「ははは.......思ったより事態は最悪みたいだね」
「そんなこと言ってる場合ですの!?シーナが...シーナが.......!」
「レイ.......」
そう告げるレイの頬を冷や汗が流れる。口ではそう強がるも、本当は心配で仕方ないのだろう。
だが、それを表情に出すわけにはいかない。みんなを安心させるために今は毅然と振る舞わなければならない。
「とにかく、今はギドを救うために動く。そして全て片付けたらシーナを探しに行こう!」
そしてレイ達が王の間へと駆けると、そこには大口を開ける巨大な蛇と、必死にそれから逃れようとするギドの姿があった。
「ライくん!」
それを見たオデットは咄嗟にライに声をかける。
「あぁ!行くぜゴラァ!!」
ライはマナを解放し、イグに向かって飛び込む。
「【紅蓮】!」
そしてそのまま蛇の顔目掛けて 戦斧を振るった。




