イグとの戦い2【負けてない】
「何を言っている?」
「俺たちは、負けてねぇ……!4年前も、そして今も……!」
どうした?絶望のあまりおかしくなってしまったのか?
「今のこの状況を見て、何故そんなことが言えるんだ
?これだから人間という生き物は……」
イグは呆れ果てる。突きつけられた現実を前に根拠もない妄想を吐く事しかできない矮小な生き物だと、目の前のギドをただただ無様に見下す。
だが、次の一言がイグの心を貫いた。
「だったら、何で俺の事を助けたんだ!!」
「……助けただと?」
ギドから放たれる突然の言葉にイグは首を傾げた。
「何でさっき俺を殺さずに牢屋の中に放り込むだけにしたんだ!?」
「言っただろう。君にはまだ利用価値がある、ただそれだけだ」
ギドの強靭な肉体があれば『人造魔人』に利用できるかもしれない。そうすれば我らが王は強大な戦力を得ることができる。
僕がイグ教なんてものをやっているのもその為だ。
「それだけじゃねぇ、何で俺を1人残して地下牢を出ていったんだ!?」
「……?何が言いたい?」
「シドの精神を支配したお前なら知っているよな!?俺はいつも盗賊の道具を隠し持ってることを!あんな適当な牢屋にぶち込まれた所ですぐに脱走できるなんて事をよぉ!!」
「っ!?」
何……?
イグの思考が固まる。言われてみればそうだ。何故、俺はこの男を放っていったのだろう?脱獄されるに決まっているじゃないか。
今思えば確かにその通りだ。
イグの動揺が彼の魔法にも広がる。段々と鎖のキレが悪くなってきた。
「それだけじゃねぇ!4年前のあの時もだ!!」
ギドはさらに言葉を続ける。
「4年前のあの時、何で俺を生かしたんだ!?」
「それは貴様の兄と盟約を……」
「そう!それが既におかしいんだよ!」
イグは後退りながら答える。圧倒的有利な対面だというのに、何故かイグはどんどん追い詰められていく。
「てめぇみてぇな人の兄貴を乗っ取るようなクズが、何で律儀にそんな約束を守ったんだ!?」
「〜〜〜〜っ!?」
「シドは死んじまったんだろう!?身体さえ奪えばおめぇはそれで良かったはずだ!あれだけ大量の人間を痛めつけ、そして殺すおめぇが、何でシドの言葉に従って俺を見逃したって言うんだ!?」
イグは頭を抱える。そうだ、思い返してみたらこれまでの僕の行動はおかしい事だらけじゃないか?
何故、僕はあいつを生かした?シドの身体さえ乗っ取ってしまえばあんな人間殺してしまえばよかったじゃないか。
それだけじゃない。そもそも何故僕はこんなイグ教なんてものを作った?多大な苦労をかけながら、力無い物を集め、そして仮初ではあるものの平和な生活を作り上げて。全員縛り上げて好き放題やればよかったじゃないか。何でわざわざこんな回りくどい方法でしかやれなかったんだ?
「な、何故だ……?」
考え始めるとキリがない。これまでの行動がまるで自分であって自分でないようなそんな感覚に襲われる。僕は、いや、我は……何故?
『あぁ。さすがギド、気づいてくれたんだね』
その時、イグの脳裏に言葉が響いた。
「き、さま……は?」
な……ぜ、貴様の意識がそこにある!?
『ははは。簡単な話さ、僕が君に負けなかった。それだけの話だよ』