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綱引き

 ソウルはイグに連れられて城の最上部。先程イグと謁見した王の間へとやってきた。


「はっ。ご大層にこんな所でやるってのかよ」


 ソウルはイグを睨みつけながら告げる。


「ははは。そうカッカするなよ。君の晴れ舞台に最高のステージを用意してやっただけじゃないか」


 そう言ってイグはソウルを何やら柱のような物に縛り上げていく。


「.......で?その肝心のゲームとやらは何なんだよ」


 ここまで連れられて来たが、その肝心のゲームとやらを聞いていない。こんな状況で一体何をやろうと言うのだろうか。


「ルールは簡単さ。今から君と僕とで『綱引き』をするのさ」


「綱引き?バカ野郎、こんな縛られた状態で綱引きなんかできるわけねぇだろ」


 今のソウルはみるも無残に縛り上げられている。身動きひとつとれやしない。


「あぁ、違う違う。僕らがやるのは精神の綱引きさ」


 そんなソウルにイグは無邪気な子どものように笑いながら告げる。


「【魂縛の鎖】についてギドから聞いているんだろう?」


「あぁ。確か死んだ奴とか魔獣を操ることができるって言ってたな」


「ふっふっふ.......本当にそれだけだと思うかい?」


 すると、イグは含みを持たせたように笑う。


「【魂縛の鎖】の本領はね、【精神支配能力】にあるんだよ」


「【精神支配能力】?」


「あぁ。操れるのは死体や魔獣だけじゃない。人間を操ることだって可能なのさ」


「なっ!?」


 人を操る力だと!?そんな魔法聞いたこともない。


「この身体を乗っ取ったのも僕の力じゃない。【魂縛の鎖】の力を僕が利用した結果の話なのさ」


「ま、待てよ!何でお前が【魂縛の鎖】の力を使ってるんだよ!!」


 だとすると話がおかしくなる。ギドの話だと【魂縛の鎖】でイグを支配しようとしたのはシドだったはず。なのに何故立場が逆転しイグがシドを支配するような事になったのだろう。


「それが『綱引き』さ。この魔道具は鎖に繋がれた者をただ無条件に支配できるわけじゃない。その精神の強さでお互いに主導権を奪い合い、そして主導権を握った方が相手を操る事ができる」


「.......それがゲームって訳か」


「話が早くて助かるよ」


 そう言ってイグは笑う。


 ようはイグがこれから【魂縛の鎖】でソウルに精神支配をかける。そしてその主導権を引っ張り合うということ。


 つまり精神の綱引きというわけか。


「ふふふ。僕の駒も見ているといい。僕に逆らう事がいかに愚かなのかということをね」


「.......」


 見るとマコが神妙な顔でイグの隣に立っている。そうか、これは彼女にとって見せしめの意味も込めているのだろう。


 ソウルの精神を支配すれば召喚獣を奪うことも可能だし、同時にマコが抱いた希望を打ち砕くこともできる。一石二鳥の策というわけか。


 だが、何故イグは初めからソウルの精神支配の手を打ってこなかったのか、という疑問が少し残った。


「へっ。見てな、マコ!」


 ソウルは暗い顔をしたマコに笑顔で呼びかける。


「俺があいつを超える!お前が新しい1歩を踏み出せるように!俺も...俺もこれまでの自分を変えるために!絶対に負けねぇ!」


「その虚勢がいつまで続くのか、見ものだね!」


 するとイグは手の平から一本の鎖を撃ち出す。そしてそれは意志を持ったようにソウルの首元へと飛来する。


 さぁ、来い!必ずお前に打ち勝って見せる!!


 ズドンッ


 こうしてソウルとイグの精神の一騎打ちが始まった。

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