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唯一の飛び級

 レイたちが『忘れられた街』を進んでいくと、そこに巨大な穴が空いていることに気がついた。


「な、何ですのこれ?」


 まるで巨大な生物が這い出してきたかのようなそれにアルはあんぐりと口を開く。


「きっと、この奥ってことで間違いないだろうね」


「あぁ。多分な」


 そう言ってレイとライは大穴の中へと飛び降りる。


「け、警戒しなくていいの!?わ、罠とかあったらどうしよう……?」


「バカロッソ。そんなの気にしてたら何も前に進まないじゃないですか」


「ねぇ。僕への当たり、きつくない?」


 そんなロッソを置いてけぼりにモニカとオデットも洞窟の中へと進んでいく。


「あぁ……分かった、分かったよ。僕も行くって!」


 そして渋々ロッソもみんなの後を追って洞窟の中へと入っていった。


ーーーーーーー


「中は結構複雑だね」


 レイは懐から魔石灯を取り出して真っ暗な道を進む。


「これではギド達がどこに行ったのか検討もつきませんね」


 そう言ってモニカはキョロキョロと洞窟内を見渡す。洞窟はいくつかの道に枝分かれしており、ソウル達が通った痕跡は残されていない様子だった。


「み、みんなで別れて進む?」


「そう言って1人逃げるつもりですか?ロッソ」


「ち、ちちち違うって!?」


「それなら、うちのオデットに任せな」


 すると、ライがオデットの背中を押す。


「ちょ、ライくん……」


 オデットは少し気まずそうに目を逸らす。


 このチームを結成した時から彼女はライの背後に隠れながら他のみんなと距離をとっている様子だ。


「あ...その……」


「全く、やる気がないのなら帰ってくださいですわ」


 すると、何かを言い淀むオデットにアルは告げる。その態度はとてもトゲトゲしく、明らかにオデットに対していい感情を持っていないことが分かる。


「まぁ待ちなよアル。それでも今僕らはチームなんだ。ここでギスギスしててもしかたないよ」


「でも……」


 そう何かを言いかけてアルはまた黙り込む。彼女の耳もそれにならってしゅんと下を向いてしまう。


 それを見たオデットもまた俯く。


 ……き、気まずい。


 洞窟の中に流れる気まずい空気。


 そんな空気の中、レイはやれやれと言うようにため息をつきながら口を開いた。



「まぁ、2人とも思うところはあると思うけど、今は置いておこう。きっと原因はソウルの昔のことだろ?だったらそれはソウルとオデットさん達の問題だ。もう僕達が外から何か言う必要はない。だから、ソウルを助け出すことだけを考えよう。だって、僕らは騎士なんだから」


「……っ」


 そう。ここにいるのはみんな騎士だ。国を守るために戦う戦士。そんな自分達が昔のこと、1人の男のことで仲違いするなど、騎士としてあるまじき行為だろう。


 今やらねばならないことをやらないで、どうするのだ。


「……ありがとう。レイさん」


「そうですわね……。今はオデットさんに怒っている場合ではありません。それよりも私はソウルに腹が立っておりますの」


 すると、アルは腕を組みながらプンスカとし始める。


「全く、いつもいつもあの人は1人で突っ走って。迷惑ったらありゃしません!後からフォローする私達の気にもなってもらいたいものですわ!!」


「あはは。違いないや」


 アルの言葉を聞いてレイは笑う。


「えぇ……もしかして普段からソウルってあんな感じなのか?あんだけめちゃくちゃするなんて、てっきりコーラリアの時だけかと」


「いやぁ、ほんといっつも突っ走ってるよ、彼は」


「えぇ、その通りでございますわ」


「あの人は一体何をやってるんですか」


 モニカも呆れたように告げる。


 オデットはそんな会話をポカンと見つめるしかない。


「オデット。あいつ、何も変わってねぇな」


「……」


 何かがあると、いつも後先考えずに突っ走ってしまう。魔法も使えなくて、1番弱っちいのに。


 オデットが昔、近所の子どもたちにいじめられた時もすぐに飛んできてはボコボコにされながらもオデットのことを守ってくれた。


 あの頃は何も飾らない、強がらない気持ちで話ができていたのに。顔を合わせた瞬間に、全てが真っ白になってしまった。


 何年も積み重なったいろんな感情がオデットに津波のように押し寄せて、つい手が出てしまった。


 本当は……本当は……私は……!



「だから、またあの頃みてぇにちゃんと話せる日が来る。そして、お前の気持ちもきっと、伝わるさ」



「.......ありがとう...ライくん」


「だから、今はあいつを助け出すぞ」


「うん……!」


 オデットは1つ大きな深呼吸をするとマナを溜め始める。


 そうだ。あのバカには伝えたいことが沢山ある。文句も愚痴も、そして……。


 だから、必ず助け出して見せる。その想いを込めて詠唱した。


「【炎】と【雷】のマナを【混合(ミックス)】!【紫外(バイオレット)】!」


 すると、オデットは聞きなれない魔法を発動させる。


 橙色のマナがオデットの周囲を取り巻き、彼女の瞳にそれは収束。そして彼女の目が淡く光を放ち始めた。


「な、なんの魔法!?」


「こいつはな……すげぇんだよ」


 困惑する一同にライが説明してくれる。



「オデットは【光】と【闇】以外の属性の魔法を全て扱える」



「はぁ!?」



 人が有することができるマナは基本的には1つ。そして多い人間でも2つ3つが限界と言われている。


 それを5属性もその身に宿すなど、聞いたことがない。


「それだけじゃない。オデットには固有のデバイス・マナ、【混合(ミックス)】のマナがある。それは、オデットの身体に宿るマナをかけあわせ、新たな魔法を生み出す力だ」


「な、なんじゃそりゃ!?」


 つまり、5属性もマナを扱えるだけじゃない。それらを掛け合わせた合計15属性もの種類のマナを操るということか!?


「今やってるのは【火】と【雷】のマナ。その力なら微かな痕跡も見逃さずに見つけることができるんだと。俺もやった事はねぇから詳しいことは分からねえが……」


 【火】と【雷】のマナを合体させて【紫外】のマナの出来上がり。紫外線を操ったり感知できるようになる。


「こっち、みんなついてきなさい」


 そしてオデットは微かに残された足跡を見迷うことなく捉え、真っ直ぐに洞窟を進み始める。



「あいつは、魔道学校始まって以来、唯一飛び級で卒業した天才、必ずソウル奪還の力になってくれるはずだ」



 そう言いながらライもオデットの後に続くのだった。

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